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花に酔って 17

 「千聖…もう10時になりますけど?」
 「…え?」
 彰吾の声に目を覚ますとすでに彰吾は着替えも終えてベッドの脇に座っていた。
 「…千聖は寝すぎだと思うけど?…ああ、スミマセン…俺が疲れさせてるんですよね」
 「……そうだな」
 ぐっすり寝たのか珍しくぱっと目が覚め、千聖はのそりと半身を起こした。

 「朝のしどけない千聖の姿も色っぽいです」
 「あ、朝っぱらから何言って…」
 「…もう朝じゃないですけど」
 …確かに…。

 「…起きる」
 朝ベッドから起きるともう真冬じゃないんだと特に感じる。冷たく肌を刺すような空気だったのが大分薄れていた。
 「桜…綺麗なんだろうな…」
 「綺麗ですよ?…お花見行きましょうね。夜桜はちょっと寒くてキツイと思いますけど」
 彰吾が起き上がった千聖に顔を斜めにして軽くキスした。
 季節の移り変わりが、目で肌で感じる事が出来るのが新鮮だ。

 「もう少ししたらガゼボで酒?」
 「……ですね。庭にも桜一本あるんですよ?温かい格好して夜桜見ながら飲みますか?」
 「……ん」
 千聖がこくんと頷くと彰吾がふっと笑った。
 ガゼボで酒を飲める頃まで彰吾はいるのだろうか?と思っていたけれどどうやらいてくれるらしい。これから先もずっと一緒にこうしていきたい、と思ってしまう。

 「さ、着替えてブランチにしましょうか?ああ、もうちょっと温かくなったらテラスでブランチもいいですね」
 「………いいな」
 くすと千聖も笑みが漏れる。
 「……楽しみな事ばかりだ」
 「それはよかった」
 毎日が無機質で通り過ぎるだけだったのに…。こんなに変わるなんて本当に思ってもみなかった。

 「千聖?そういえば急ぎで入った仕事で今日仕上げなきゃない仕事あるって言ってませんでしたか?」
 「あ!ある!やばい!」
 飛び起きてささっと着替えた。チェストは二つ。季節で着るものの二人分の服だ。着ない服は別室に。この家のどこもかしこも千聖と彰吾の二人分のものが備わっている。とくに二階はそうだ。
 「彰吾は今日は打ち合わせ入ってるって言ったな?」
 「そう。新築の家の庭を頼まれたのでお父さんと行ってきます。ちゃんと酒抜けたかな?」
 彰吾と顔を合わせて笑ってしまった。


 午後、打ち合わせだという彰吾を見送り、さて自分の依頼の分の仕事をこなさないと!と千聖は自分のPCに向かっていた。
 彰吾は工期の確認とか、簡単な打ち合わせだで時間はかからないと言っていたが…。彰吾も職人として入るつもりなのだろうか?
 家に来てた時の彰吾を思い出して複雑な気分になってしまう。彰吾が仕事好きなのは知っているが、自分の庭じゃないとこに入れ込むのは面白くないかも…とか。どれだけ自分は彰吾を独占したいのか…。

 はぁ、と浅く息を吐き出し、余計な事を考えてた!と再びPCに目を向ける。
 そしてやっと集中してきたと思ったらインターホンが鳴ったのにチッと舌打ちしてしまった。
 無視しようかとも思ったが、庭を見せてくださいなどの客だったら彰吾の仕事に関わる事でもあるので無視出来ない。
 仕方なく溜息を吐きながら階下に降りた。

 「はい、どちら様…」
 苛立ちを少し含めた声でドアをがばっと開けて出てみれば立っていたのは彰吾の妹だった。
 「……………昨日はお邪魔しました。…彰吾はいませんけど?」
 高校の卒業式は終わったと彰吾が言っていたから休みなのだろう。しかし彰吾がいないのは分かっているんじゃないのか?彰吾のお父さんと一緒に行ったんだから。
 「……知ってます」

 知っている?ということは何か?自分に会いに来た、という事か?…と千聖は訝しげに彰吾の妹を見た。
 そして彰吾の妹も計るように千聖を見ていたのが分かった。
 …女の勘か?千聖を疑っているらしい穿った視線に千聖はくすりと意地悪な笑みが浮かんだ。
 「何か話でも?」
 「話…というか…」
 逡巡を見せる妹にさてどうしたものかと千聖も悩んでしまう。

 昨日の帰り際、千聖が嫉妬を浮かべて妹を刺激してしまったのは大人気ないと自分でも分かってはいるのだが…。だからといってやはりこうして乗り込んできた女に黙っているなど千聖は出来ない。そう、これは彰吾の妹としてではなくただの女としてやってきたんだ。

 彰吾の妹としてならば丁重にもてなすが女としてなら話は別だ。彰吾は千聖のものだ。女に渡す気などさらさらない。
 彰吾の妹エリカはじっと千聖を睨むように凝視し、千聖はそれを無表情で受け止めていた。

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