はのんのBL部屋

　庭には一本の桜が花を満開に咲かせていた。
　いつも冬が通り過ぎ暖かくなってきて夜に外に出てもいいかなと思う頃、ガゼボのシーズン始めは夜桜を見ながら一杯、だ。
　それを皮切りに気分がいい日などは彰吾と酒を持って夜はガゼボで飲む日も多くなる。

　この年も桜が咲いて日中が暖かだった日で、彰吾と顔を合わせ、酒を片手にガゼボの解禁日のお祝いだ。
　どれ位一緒にいてくれるのだろうと思ったが、年数が経った今もまだこうして彰吾は千聖の隣にいてくれる。
　「エリカ…大学で彼氏出来たって」
　「知ってる」
　「え？どうして？俺、今日お父さんに聞いたんだけど？お父さんはしょげてたけど…」
　「報告のメールきてた」

　「…………なんで千聖に？」
　「冬に帰ってきてた時に相談されたから」
　「………どうして千聖に？」
　むっと彰吾が面白くなさそうに眉間に皺を寄せた。
　「どうして？…多分兄嫁だからかな…？」
　彰吾が大きく目を見開き、そして声を出して笑った。

　缶ビール片手に彰吾とガゼボから桜を眺めながらビールを煽る。
　いつもこの解禁日が待ち遠しい。
　「またガゼボで酒…始まりますね」
　「ああ…本当に思いつきで作ったけど、こんなにお気に入りになるなんて思ってもなかった」
　「…千聖ここ好きですね」
　「ああ…だって庭が見えるし、空も見える。隣に彰吾もいるし…彰吾がいなかったらここまで利用しなかったと思うけど」

　「……千聖…まだ少し寒いでしょう」
　上着を着ていなかった千聖がふるっと震えるとすぐに彰吾が気付いて声をかけてきた。
　「…ん」
　日中は暖かい日も多くなったけど夜は冷える。上着を着てた彰吾がおいで、と上着を持ち上げたその中に千聖は入った。
　「…あったかい」
　千聖の肩を抱きながらぐいと彰吾がビールを煽る。

　「ほんと…ここの場所正解でしたよね。千聖がガゼボって言って設置場所悩んだんだけど。外から見えないところがいいよなとか、庭はある程度見えてとか、月の見える位置まで調べて…」
　「…………そうだったんだ…」
　「当然でしょ」
　「………さすがだね」
　今はもう彰吾は仕事が詰まりまくりで少々鬱屈も溜まっているらしい。なにしろ忙しくて自分があまり庭を弄れないから。

　「外から見えないからイイコトいつでも出来るし」　
　どん、と彰吾の脇腹を突く。
　ガゼボで飲みながらキスしてそのまま気分が盛り上がってイタしたのがもう何回も…。
　「千聖だっていつも感じるくせに」
　…そうだけど…。
　「んっ…」
　彰吾が耳を食んできたのに声が漏れる。

　「今日はまだ寒いからダメですよ？」
　「……別に今って言ってない！」
　「そう？」
　くっと彰吾が笑うのにもう一回脇腹を突く。
　「もちょっと暖かくなったらね」
　「言ってない！」
　「期待に応えないと」

　「聞いてる？別にここでしたいとか思ってないって！」
　「え…そう？俺はしたいけど？アオカン」
　「…………彰吾最近オヤジ化してないか？」
　「ひどい……。千聖がエロいのが悪いんですよ？」
　「……悪いのか？」
　「ああ、すみません。全然悪くないです。ところで寒いのでさっさとビール飲んで中入りましょう？お風呂入って後はベッドに」

　「…………」
　艶めいた声で彰吾が千聖の耳元に囁く。それに勿論千聖は反対なんてないけど…。
　「もうちょっとゆっくり見てたいのに」
　「いつでも見られますよ。これから先だってずっと変わらずあるんですから」
　「………ん」

　来年もその次の年もずっと一緒に…。
　春も夏も秋も冬も…。次の年も…。

　季節がめぐってもこうして彰吾が傍にいてくれるんだ。
　一日一日積み重なって年月が過ぎそれと同じく千聖の不安が段々と薄らいでいくようになっていた。張り詰めていた、尖っていた自分は一体どこに消えてしまったのだろうか？
　「綺麗ですね…」
　「うん」
　庭の桜を見ながら千聖が頷いた。

　「…………千聖の事ですけど？」
　「は？」
　「年を経る毎に綺麗になっていく様な気がして…。初めから綺麗な人だとは思ってましたけど薔薇の棘がなくなっていく感じ…かな…」
　「……棘…ああ…それは分かる気がする。…彰吾がそうさせるんだ…きっと」
　「そうですか？」
　「うん…そう」

　毎年雪が溶けて春になるのと同じように千聖の中のいらない物が溶けてなくなっていくんだと思う。
　「…やっぱり中入ろうか？」
　「ええ。そうしましょう」
　彰吾が軽くキスしてそして千聖の肩を抱えたまま家の方に向かっていく。
　家には明かりが点いて暖かく二人を待っていてくれるようだ。
　ここが千聖のいる場所、帰ってくる場所だ。

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続きに拍手コメお返事です～^^