はのんのBL部屋

　先生…来るのかな？お隣にいるのかな？
　ピンポーンと来客を告げるインターホンの音にお母さんの声が聞こえる。
　日和はそっと二階の自分の部屋の窓を開けてお隣の家を見るけれど壁ばっかりで全然見えない。
　ちえっと思いながら日和は窓を閉めた。
　お隣に来てたってもう先生は日和の部屋になんか来てくれる事もないだろうし、日和が先生の家に行く事もないだろう。

　…今日はお話できたけど。
　先生はもうお家を出て一人暮らししてるし…。
　なんで家を出て行ったんだろう？
　せめてお家に戻ってくれれば距離も近かったのに…。

　コンコンとノックの音がした。

　「はい？」
　お母さん？
　ノックがしたのにドアが開かないので日和はなんだろうと思いながらドアを開けた。
　「………ぁっ！！！」
　ドアの前に立ってたのはおにいちゃんだ！
　うそ！
　「ひよ…部屋入っていい？」

　部屋？何？ああ！日和の部屋？
　頭がパニックを起こしている。
　夢？夢じゃない？何？
　「ひよ？」
　「あ、あ、…ど…ぞ…」

　なんで？どうして！？
　いや、お隣には帰ってきてたんだろうけど！
　だからってどうして？
　今日まで全然顔も見てくれないような感じだったのに！

　「ひよ？」
　名前だって全然今日まで呼んでくれなかったのに！
　すっ、と先生が一歩日和の部屋の中に入った。
　部屋に…いる！
　日和も高校生になって大きくなったけど、やっぱりずっと先生の方が背は高い。
　何て呼べばいいの…？
　先生？おにいちゃん？

　「ひよ！？」
　来てくれた！
　ぼとぼとと涙が溢れてきた。
　「せんせ……？」
　「……先生じゃないだろ」
　「…おにいちゃん」
　「うーん…それも今はちょっと…ひよ…泣くな…」
　だって！
　ずっとずっと待ってたんだもん…。

　「うー……」
　声まで出てきて泣いてしまう。だってだって…。
　「ひよ…困ったな」
　止まんない。だってひよって呼んでくれて目に前にいるんだもん。
　「ひよ、ほらおいで」
　小さい時も苛められて泣いてるといつもぎゅっとしてくれた。
　先生が手を広げてくれたのに抱きつく。

　いいの…？
　寂しかった！ずっと…。
　小さい頃はおにいちゃんに抱きついていつも泣いてた。いなくなってからはずっと一人だった。いっつも一人でベッドで我慢して、一人で…。
　「うー……」
　「ひよ…頑張ったな…」
　優しい声が聞こえてますます涙が止まらなくなってくる。

　嗚咽になってぎゅうぎゅうに抱きつくと先生の手が日和の頭を撫でてくれる。
　変わらない…。前と一緒だ…。
　「ひよ…今までごめんな…？」
　何が？
　何がごめんなの？
　聞きたくても泣くのを止められなくてもうダメ！
　「ひよ…」
　何度も名前を呼んでくれて頭を撫でてくれるのに夢なら覚めないで！と切実に思ってしまう。
　


　「ひよ…落ち着いた？」
　「……ん…」
　ベッドに並んで腰かけてたけど盛大に泣いてしまったのが恥ずかしくなってくる。
　だって高校生になるのにこれじゃ小学校の頃と何も変わってないじゃないか。ちょっとは大きくなったはずなのに。
　「先生…」
　「………先生はやめろよ。でもおにいちゃんもちょっとな…。うーん…名前か？」
　「え、え、…瑛貴…くん…さん……」

　無理っ！
　ぷるぷると首を横に振る。
　名前でなんて！
　「せんせ…でいい」
　「俺が嫌なんだよ。なんで学校でもねぇのに先生って」
　「だって…名前なんて…」
　そんな呼んだ事もないのに。

　「学校では先生でいいけど。学校じゃないだろ」
　だって！小さい頃からずっとおにいちゃんだったのに。やっと先生って普通に呼べるようになったのに。
　名前でなんて。
　瑛貴くん…？瑛貴さん…？
　かぁっと顔が赤くなってきて頭をぷるぷると振った。

　「……………じゃ、いいよセンセで」
　先生が苦笑する。
　だって…今日だけじゃない…？またひよって呼んでくれる？日和もせんせって呼んでいいの？話しかけていいの？
　聞きたいけど怖い。
　だって今日だけだって言われたら…。
　また目が潤んできそうになる。
　「ひよ…？まだ泣き足りない…？」　

　「……だ、って…せんせ…今日…だけ…？また、ひよって…呼んでくれなくなる…？」
　「………ひよがいいならひよって呼ぶ。ああ、学校以外でだ。学校ではダメ」
　「学校以外…で…？」
　学校以外でもまたこうして会ってくれてひよって呼んでくれるって事？
　「…ああ……って…また泣く」
　「だ、って…っ…さび…し…かった……」
　「ああ、ごめん…ひよ…」
　また泣き出してしまった日和をもう一度せんせが抱きしめてくれた。

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続きに拍手コメお返事です^^