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約束。 12

 昨日おにいちゃん来たよね?夢じゃないよね?

 …と母親に確認したくなったけど、さすがにそんなの聞けなくて言葉は飲み込んでおく。
 「あ!バス今日一本早いので行く!戸田と同じバスだったみたいなんだ」
 「あらそうなの?」
 「いつも時間ずれてて知らなかったんだけど。そうみたい」
 「……よかったね」
 「うん」

 中学の時イジメにあってたのは一部からだったけど、苦痛だった。
 暴力とかではなかったけど…いや、言葉の暴力だから暴力なのかな?
 高校はそいつらとは全然別になったし、今はそんな事も全然なくて戸田とも友達になって本当によかったと思う。
 「いってきます」
 ちょっとどきどきしながら家を出た。

 学校で瑛貴くんは目を合わせてくれるんだろうか?いつもじっと見てるのは日和だけだったけど、ちょっとは日和の事も見てくれるかな?
 ほんのちょっとの期待でどきどきしてしまう。
 学校ではひよなんて呼ばれることはないだろうけど…。
 あ、でも昨日は小さく呼んでくれた。周りに誰もいないようだったら呼んでくれる?特別にしてくれる?

 考える事は瑛貴くんの事ばっかりだ。
 一人で考えて思い出して顔が弛んだりにやけたりしてしまう。
 これじゃ危ない人になっちゃうから気をつけないと!
 バスに揺られながら戸田が乗るバス亭を見たら同じ制服の背の高い戸田がいた。
 戸田も日和に気づいて手を振る。

 「うっす」
 「…おはよ」
 朝から一緒のバスって変な感じ。昨日は家まで来たし、それもちょっと変な感じ。
 「昨日はどうも。夜にちょっと読んでみようかって思ったら面白くてやめられなくなって困った!」
 「でしょ?」
 つり革に掴まりながら小さい声で会話する。

 途中でバスを乗り換えて学校までずっと喋りっぱなし。
 席でも前後で結構話してたけど、昨日も朝もずっと話しっぱなしって日和にしたら考えられない事だ。
 戸田が気さくに話しかけてくれるからだ。
 自分も戸田みたいに明るくて自分に自信があってはきはきと誰とでも話せるようだったらきっとイジメられるなんてないんだろうな…。
 自分がこんなだから仕方ないとは思うけど。
 …でも瑛貴くんに可愛い、って言われたし!
 自分は自分なんだから人を羨んでも仕方ない事だ。
 
 学校に着いて朝のホームルームまでどうしても落ち着かない。
 「どうした?」
 「え?あ、ううん!なんでもないよ」
 落ち着かないのが戸田には分かられたらしい。どうにかごまかしてチャイムがなって着席する。

 まだざわざわとしてるけど、他の生徒もそれぞれ自分の席に着く。
 ちょっとしてがらっとドアがガラッと開いたのにどきん、と日和の心臓が跳ねた。
 瑛貴くんだ!
 じっと顔を見てるとちらっと瑛貴くんが日和を見てくれた。
 見てくれた!
 嬉しい!と思わず口を押さえて顔を俯けた。

 「出席とるぞ」
 瑛貴くんの声。
 苗字を呼ばれて返事していく。
 「高宮」
 「…はい」
 「戸田」
 「はい」
 するっと日和の所を過ぎ去っていくのはいつもと一緒。でも違うもん!

 ちらっとまた顔を上げて瑛貴くん…ううん今は学校だから月村先生の顔を見た。
 …あ、目が合った。そしてふっと瑛貴くんが口元にうっすら笑みを浮かべたのにかぁっと顔が熱くなってくる。
 やっぱり昨日までと違う!
 どきどきする。
 なんか…なんか…秘密の恋みたいな感じ!!!

 ……実際は全然そんなんじゃないけど…。
 でも日和は瑛貴くんの事好きなはず。だってこんなにドキドキしてる。
 でも瑛貴くんはただの隣の小さい子でしかないだろうけど…。
 なんか自分で思ってしゅんとしてしまう。でも瑛貴くんがそういう風にしか思ってないんだったら別にそこまで日和が気を遣わなくてもいいのかな…?
 恋人とかだったら…先生と生徒、なんて隠さなきゃないけど…。

 …ってその前に男でした!自分がどうしても小さい頃からおにいちゃんと結婚するとか言ってたし、好きばっかりだったのでそこは抜け落ちてしまう。
 だよね…。瑛貴くんにしたら隣の家の子で、小さい頃面倒見た男の子ってだけだ。
 結婚言ってたのだって小さい頃だし。
 でも!ひよが大きくなっても好きだったら考える、って言ってたし…。

 それもはぐらかして言っただけだよね。小さい子なんてわけわかんない事言うから……。

 はいはい、って適当に流す感じだったはずだ、きっと。
 瑛貴くんはかっこいいし、絶対もてるはず。頭だっていいし、背も高いし。
 それなのに日和なんか相手するはずないでしょ。
 ただずっと面倒みてて日和が泣いて縋るから…そして瑛貴くんは優しいから…。
 日和に近づくとそうなるから…縋っちゃうからずっと見ないふりしてたのかな…?
 でもじゃあどうして昨日から変わったんだろう?
 なんか全然わかんない…。
 でもいいんだ…。今日は日和の顔を見て微笑んでくれたんだから。

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