はのんのBL部屋

　「さ、食った事だし、教科書ノート出せ」
　瑛貴くんに言われて鞄から教科書とノートと筆記用具を取り出す。
　「ひよは一番何が苦手だ？」
　「なんだろう…やっぱり理数系はちょっと…」
　「…小さい頃からひよは本とか好きだったもんな」
　くすと瑛貴くんが柔らかな笑みを浮べた。

　日和の小さい頃を思い出してる…？
　嬉しいけど、ちょっと複雑な気もする。何しろ幼稚園に入る前からの日和の事を瑛貴くんは知っているのだ。
　瑛貴くんの中で日和は大きくなっているのだろうか…？
　「…数学…瑛貴くん分かる？」
　「高校位のだったら分かるだろ。…多分。どれ…数Ⅰは楽勝だろ。先生は斉藤先生だっけ？」

　「そうなんだけど…。声聞いてると眠くなってきて…」
　「ああ！よく斉藤先生言ってるな。授業中に寝てるヤツが多いってぼやいてた」
　「…だってお経みたいなんだもん…」
　声に抑揚がないからなのだろうか？
　反対に瑛貴くんの授業はどんなに眠くたって目が冴えてくるんだから自分でも呆れちゃう。
　今だって本当にもう距離が近いし、久しぶりに長い時間一緒にいられるしで何をどうしていいのか分からない位だ。
　小さい頃はただ一緒にいられればよかったんだけど…。

　「あ……っ！」
　思い出したっ！
　「ん？」
　「な、なんでもない…っ」
　小さい頃から本とか好きだったって…！よく瑛貴くんの膝に乗って本読んでもらったりしてたんだ！日和が小さかったからすっぽりと瑛貴くんに抱っこしてもらうようにして！
　……小さかったし！別に何でもないことだけど！

　今それを思い出すと恥ずかしい。さっき瑛貴くんはそれを思い出してたのかな…？
　「じゃ、この問題やってみ？」
　「う、うん…」
　テーブルの向いにいた瑛貴くんが隣に移動してきてさらに距離が近づいたのにますます心臓がうるさくなってくる。
　なんでこんなにうるさいんだろう？瑛貴くんに気付かれないかな…？
　身体が固くなったままシャーぺンを取ろうとしたらぽろっとシャーペンが手から零れる。

　「……ひよ……」
　うわ、そんな近くで二人っきりなのに名前呼ばれちゃったら…。
　赤くなってるだろう顔を俯けてぎゅうっと日和は目を瞑った。
　「…まだ緊張してるのか？」
　してるっ！

　「え、え、え、…瑛貴くん…っ…！？」
　瑛貴くんが日和の肩を掴むとぐいと身体を抱き寄せられた。
　「よく抱っこしてやっただろ？」
　「………」
　そうだけど！だってあれは！小さかったし！今？何で！？
　でも…。

　そっと目を開けて瑛貴くんの顔を窺い見ると目の前だ。
　かぁっとますます顔が熱くなってくるけど合った視線が逸らせない。
　「…ひよ…ずっと…帰らなくて悪かった…。それなのにまた元のようにひよにして欲しいと思ってる……。ひよは嫌か？」
　「……や、じゃない…」
　嫌なんて思うはずない！

　「…気遣ってのと違う？」
　「違うっ。…ずっと…寂しか…った…って……言ったもん」
　「……そっか」
　「緊張してるのは！…久しぶりだからだもん！」
　本当は違うと思うけど！だって好きな人がこんな近くにいたら誰だって緊張すると思う！
　「……っ」

　ぎゅっと瑛貴くんに抱っこされて体温を感じ、それに慣れてくれば少しずつ身体の力が抜けてくる。
　いいのかな…と思いながら日和も瑛貴くんに擦り寄った。
　そう…毎日のように抱きついたりおんぶしたりしてもらってたんだ。
　今でも子供のふりしてくっ付いて甘えて…そしたらいい？

　でも緊張しちゃってたらとてもじゃないけど出来ない気がする。
　瑛貴くんの手が日和の緊張を取るためになのか背中を摩ってくれて日和は小さくほっと息をついた。
　やっぱり好き。
　日和はそろそろと手を上げて瑛貴くんの胸の辺りを掴んだ。

　捕まってていい？離れなくていい？
　好きってホントは言いたい。大きくなっても好きだったら考えてくれるって言った！って言いたい。
　…けど、そんな事言ってまた瑛貴くんがいなくなったりしたら嫌だ。
　それだったら子供のふりしてこうしてもらえるほうがずっといいに決まってる。
　なんでずっと帰ってこなかったのかも日和には分からないけれど、それを聞かなくてもまたこうして瑛貴くんが近くにいてくれるならそれでいいんだ。
　自分が子供のままでいれば、それで全部いいんだ。

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続きに拍手コメお返事です^^