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約束。 23

 「今日の日直…高宮か。昼休みに視聴覚室でプリント閉じるの手伝って」
 どきん!と日和の心臓が大きく鳴った。
 朝のホームルーム終了間際に瑛貴くんがそんな事言うから!

 「え~?高宮だけ?俺も日直一緒だけど?」
 「戸田はうるさいから要らない。高宮?いいか?」
 「あ、……は、はい」
 もしかして学校で瑛貴くんと二人になれる…?
 ご愁傷様と周りから声をかけられるけど、日和にしたら嬉しい事だ。

 「じゃ弁当食べたら来て」
 「は、…はい」
 瑛貴くんがうっすらと笑みを浮べながら言うのにこくんと日和が頷いた。
 う~わ~!嬉しい!
 瑛貴くんから声がかかるなんて!
 日直は大好きだ。
 だって日誌を瑛貴くんの所まで持っていったりできるから。

 前は持っていっても顔を見てくれもしなかったんだけど…きっと今日は違うはず。
 瑛貴くんがホームルームを終わって教室を出て行った後も一人で日和はてれてれと照れていると後ろの席の戸田が日和の背中を突いた。
 「な、何?」
 「いや…嬉しい?」
 こそっと戸田が小さい声で聞いて来て日和は小さく頷いた。

 「ふぅん…」
 あれ?なんか戸田が面白くなさそう…?
 「どうかした?」
 「え?あ、いいや?………高宮…告白とかすんの…?」
 「し、しない!よっ!…出来るわけないでしょっ!」
 とんでもない事を聞いて来た戸田に日和は慌ててしまう。

 「そぉ?」
 「あ、あ、当たり前…でしょっ」
 「……ふぅん…なんか辛いこととかあったらいつでも言えよ?」
 「………ありがと…」
 告白なんて出来るはずない!
 …いいんだ…今のままで…。今だって瑛貴くんの部屋連れて行ってもらえるし、ひよって呼んでくれるんだから。
 戸田にはそんな事勿論言えはしないけど。
 二人だったら…学校でも…瑛貴くんはひよって呼んでくれるかな…?
 そんな淡い期待までしてしまう。
 

 お昼休み、いそいそとお弁当を食べて戸田に行ってくるね、と断って日和は視聴覚室に向かった。
 もう瑛貴くん来てるのかな…?
 そっと視聴覚室のドアをノックするとドアが開いて日和がぱっと顔を上げたらそこにいたのは瑛貴くんじゃなかった。
 「…え?」
 「あら…どうぞ?じゃあ、月村先生」
 日和と入れ違いに出て行ったのは英語の文法の方の本間先生だ…。
 綺麗でスタイルよくて男子にすごい人気の先生。その先生が…。

 「ひよ」
 本間先生がいなくなった後、小さく瑛貴くんが日和を呼んだ声にあ、いた!と日和はドアを閉めて視聴覚室の中に入った。
 「悪いな、ひよ」
 「ううん!」
 むしろ嬉しいもん!
 そそとプリントを並べている瑛貴くんの隣に日和が立つと瑛貴くんが日和の頭を撫でてくれた。

 「じゃ、これ一枚ずつとって渡して」
 「うん」
 本間先生はきっと何か瑛貴くんに用事だったんだろう。
 「ひよ。朝も戸田と一緒なのか?」
 「え?うん。バスの路線も一緒だったんだ。だから時間合わせて朝も一緒……どうして?」
 「いや、…仲いいなと思って」
 「うん…」
 日和が頷くと瑛貴くんは複雑そうな表情をした。

 何かな…?
 朝は戸田が変な顔してたけど…。
 「ひよ。そっちから…」
 「あ、はい」
 瑛貴くんに言われて瑛貴くんが何を気にしているのか聞く事も出来ないでプリントを重ねて瑛貴くんに渡していく。

 学校でもひよって呼ばれた…。
 ちょっとくすぐったくてそして嬉しい。
 日和が日直だったからわざと…?なんて自分の都合のいいように考えてしまう。
 「ひよ、俺に呼ばれてこんな事させられて嫌じゃねぇ?」
 「ううん!全然!…むしろ嬉しい…瑛貴くんにひよって呼ばれるの好き」
 「……ほんとひよは可愛いな」

 よしよしと瑛貴くんが日和の頭を抱えるようにして頭を撫でてくれる。
 なんかずっと日和の事を見ないふりしてたのが嘘のようだ。
 こんな事されたらますます瑛貴くんの事意識してしまうのに。ドキドキする心臓と安心する心が複雑だ。
 「お、終わらなくなっちゃうよ…」
 「ん?ああ、別に俺次の時間空き時間だから終わらなくても大丈夫だ」

 え?
 じゃあ…やっぱりわざわざ日和を呼んだの?
 じっと日和は瑛貴くんを見上げた。
 「…またこうやってなんかあったら呼んでも?」
 「うん…呼んで欲しい」
 日和の視線に気付いて瑛貴くんが苦笑しながらそう聞いて来て日和は勿論、とはにかみながらこくんと頷いた。

 嬉しい!
 「瑛貴くん…」
 瑛貴くんの腕が日和の頭をぐいと抱き寄せてくれたのが嬉しくてすりと瑛貴くんに日和も擦り寄る。
 日和にだけこうしてくれて、日和だけ特別になりたい。
 思わず自分に都合のいい事を期待してしまう。
 

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