「ま、話聞くだけとかでもいつでもいいから」
「……ありがとう…あの…本当に戸田には感謝してるし、いっつも助かってるんだ」
「そ?」
「うん」
戸田と一緒のバスに揺られながら帰る。
「じゃ明日な!…もし悩むようなら言えよ?メールでもいいし」
「…うん」
戸田が日和の肩をぽんと叩いてバスを降りていった。
優しいなぁ、とやっぱり嬉しくなる。
バスが出発するのに窓から戸田に手を降って日和は笑顔を見せた。
『映画行ってきたのか?』
「うん。行ってきたよ」
毎日の定時の瑛貴くんからの電話。今はこの時間が一番楽しみかもしれない。学校で自由に話せない分がここに詰まってるし、それに瑛貴くんの声が近いから…。
でも今日聞いた事を瑛貴くんに確かめる事なんかとてもじゃないけど出来ない。
そんな事日和に関係ないだろと言われるのがオチだ。
瑛貴くんに会いたい…。
いや、学校で会ってはいるけど、そうじゃなくて、瑛貴くんの近くにいたい…。
そんな事も言えないけど!
小さい頃はよかった…。何も言わなくたってずっと瑛貴くんが隣にいてくれたから…。
『楽しかったか?』
「え…あ、うん…」
『なんだ?そうでもなかったのか?』
日和の声色にすぐに瑛貴くんは気付く。
「そんな事ないよ?楽しかった」
映画は。
そのあとの瑛貴くんの話に日和がちょっと引っかかってるだけだ。
「瑛貴くん…忙しい?」
『まぁな。点数つけなきゃないし。全部成績出たらつけなきゃないしな』
…だよね。運動部の顧問してるわけじゃないからまだいいんだろうけど。
「僕行くとこまだ考え中だから行くのも瑛貴くんが時間ある時でいいよ…」
本当は今だって会いたいとか思ってるのに…。
だってやっぱり子供の頃とは違うもん…。
『別に大丈夫だけど…。昔の先生方は家に持って返ってまでしてたらしいけど、今は学校内でしかダメだからな。俺も休みの日までしたくねぇし』
学校の先生してる時よりも砕けた言い方になる瑛貴くんに日和は顔が緩む。
『じゃ今度一緒に行き先決めるか』
「うん…」
会える約束をもらえるのが嬉しい!
瑛貴くんから言い出だしてもらえればそれだけで日和は特別と言われてるみたいで安心してしまう。
…多分もう日和から我儘な事は言えないかもしれない。瑛貴くんはいなくならないって言ってたけどそれでもどうしても不安になってしまうから。
「…瑛貴くん…」
『うん?なんだ?』
…会いたい……。
「ううん…なんでもない」
『……もう寝ろ。テスト勉強で疲れただろ?今日はゆっくり寝ろな』
「うん…」
瑛貴くんの声が優しい。
「お休みなさい」
『おやすみ、ひよ』
電話が切れる前にひよ、と呼んでくれたのにどきんと心臓が鳴る。
毎日くれる電話が日和に安心を与えてくれる。
そして少しのドキドキ…。
そしてさらに好きになっちゃうんだ。
小さかった頃には分からなかった瑛貴くんの優しい所が凄くよく分かる。
当たり前に思っていた事が当たり前じゃなかったのがよく分かる。
小さい頃はもっと凄く日和は我儘だったと思うのに瑛貴くんはそんな風に言わない。
それにすごく纏わりついてたのに…。
大人だなぁ、と思う。
瑛貴くんとのその差が縮まることがないのが悲しい。
きっといつまで経っても日和は瑛貴くんにとって小さな子供なのだろうと思う。
もうちょっと年が近かったら…。思わずそんな事を思ってしまう。
年が近くたって日和は小さくたって男なんだからそんな対象に見られるはずないのに。
女の子だったらよかったのかな…?
それでもやっぱり違うと思う。日和が日和で瑛貴くんが瑛貴くんだから好きなんだ。
小さい頃からずっと変わらない。
「瑛貴くん…好き…。……約束…覚えてる…?」
切れた電話に向かって囁いた。
こんな事面と向かってもう聞けない。でも日和の中でずっとずっと好きなのは瑛貴くんだけだ。
瑛貴くんが離れていた時だって変わらなかった。
「大きくなっても日和が瑛貴くんの事好きだったら…考えてくれるって…そう言ったよね…?」
瑛貴くんと繋がっていた電話。
…切れた電話。
ぎゅっと日和は電話を胸に抱きしめた。
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