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約束。 29

 「高宮!ほんとごめん!…」
 「いいってば…」
 もうずっと戸田が謝りっぱなしだ。
 帰り道でも帰りのバスでも。
 日和がしゅんとしちゃったのを気にしてるらしい。
 「俺、考え無しだから…。な、一回家帰ってから高宮んち行っていい?」
 「…うん、いいよ」
 日和一人になったら色々余計な事を考えてしまうかもしれないし気が紛れるかも、と頷く。

 本当に大慌てで来たのか日和が家に着いて間もなくすぐに戸田がやってきた。
 「高宮!ごめん!」
 日和の部屋に入ってすぐに戸田が大きい身体を小さくして手を合わせてまた謝る。
 「いいって言ってるのに」
 戸田が気にしすぎているのに苦笑してしまう。

 「…むしろよかったんだと思うから…。…諦めた方いいって事だもんね…。分かってた事だけど…」
 「高宮!俺…」
 「何か飲み物でも持ってくるね」
 戸田を部屋に残して日和は階段を下り冷蔵庫をあけてコップにウーロン茶を注ぐ。
 「ごめん!ウーロン茶しかなかったんだけど」

 「それはいいけど!あ、高宮、携帯鳴ってたぞ」
 「え?」
 誰だろう?かけてくるのは瑛貴くんか戸田からのメールか位なのに…。
 そう思いながら携帯を見てみれば瑛貴くんからだった。
 こんな時間に?何か用事でもあったのかな?

 「…ちょっとごめん。電話かけてくる」
 部屋を出て階段を降り、ドキドキしながら電話をかけた。
 『もしもし』
 「瑛貴くん、あの電話…何か用事…?」
 『ああ…いや、違う。帰り、お前元気なさそうだったからどうしたのかと思って』
 見てくれてたんだ…。

 「ううん!大丈夫だよ?…何でもない…」
 『そうか?…ならいいけど』
 ほら…さっきまでの凹んでた気持ちがちょっとの事で浮き上がってくる。
 「瑛貴くん…まだ終わんないの?」
 『ああ。これから会議だ。ったく…じゃな、ひよ。また夜電話する』
 「……うん」

 電話も毎日いいよ、と言えばいいのに言わない。
 だって待ってるんだもん。電話欲しいんだもん。
 思わぬ電話と日和を見て凹んでたのに気付いてくれてたのが嬉しい。
 やっぱり好き!
 凹んでた気分が上昇して二階に戻る。

 「戸田、ごめん」
 「ああ、いやいいけど。なぁ、ちょっと表示見えちゃったんだけど、お前兄貴いるの?」
 どきりとした。よかった、表示をおにいちゃんにしておいて。これが瑛貴くんの名前にしてたら見られた、って事だ。
 「いないよ。あれはお隣のおにいちゃん…なんだ。ずっと僕の事面倒みてくれてたから…」
 「そうなんだ」

 …嘘はついてない。本当の事だ。ただそれが先生だって言ってないだけ。
 そこはちょっと心苦しいけど、それは日和だけの問題じゃないから言えない。
 「…高宮、ちょっと元気になった…?」
 「…………うん」
 そっか、よかった、と戸田が溜息を吐き出した。

 「あわよくば、なんて思ったんじゃない!本当に!」
 「何が?」
 「いや!自分に言い訳!」
 「?」
 戸田が大きな声で言うけれど意味が分からない。
 「…でも、高宮が苦しそうになるのは嫌だな…とは思った」
 「……………ありがと」

 「いや!礼言われる事じゃねぇから!…自分に都合いい方に考えてるし」
 「?」
 わたわたと戸田が慌てている。さっきからどうしたんだろう?
 「本当に気にしなくていいよ?…僕やっぱり…先生の事好きだし…」
 「………そっか」
 「……うん…。ごめんね?こんなの…戸田にしたら気色悪いだろうに」
 「全然!!!」
 「…ありがとう…。僕…本当に嬉しいんだ…。友達って戸田が始めてだと思う」
 「…そう、なのか…?」
 「うん」

 日和が頷くと戸田がうーとかあーとかうめき声を出している。
 「我慢する!」
 「……何を?」
 「色々!でも…高宮、何かあったらなんでも言えな?月村の事でもなんでもいい。俺…ちゃんと聞くから。…力にはなれねぇと思うけど」
 「ううん…ありがとう」

 日和が笑うと戸田も嬉しそうに笑った。
 「なぁ!テスト終わったしまた本貸して?」
 「いいよ。前のみたいなのが面白かったならこの辺も面白いと思うけど」
 二人で日和の本棚の前であれこれと物色する。
 他愛もない時間だけどきっと友達といるってこんな感じなのだろう。
 

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