はのんのBL部屋

　戸田が帰ってしまえばどうしても考える事は瑛貴くんの事になってしまう。
　大事な人…。
　そんな人が瑛貴くんにいるなら瑛貴くんの休みを日和が毎回潰しちゃいけない。
　ドライブは約束してたから…それは一回だけ連れて行ってもらおう。
　それで満足しなきゃいけないんだ。
　瑛貴くんとって日和はただの隣の家の子供だ。ずっと面倒みてくれてたからちょっと特別にしてくれるだけ。
　瑛貴くんの大事な人は別にいるんだから…。

　じわりと目が潤んでくる。
　こんなに好きなのに。ずっと小さい頃から…。約束の事を瑛貴くんに聞いて日和の事を考えてと言ってしまいたい。
　…そんな事言ってもどうしようもないのに…。
　どこに行くか一緒に決めようなんて瑛貴くんは言ってくれてたけど、もう早く決めちゃった方がいいのかな…。

　…そうだ…牧場がいい！
　小さい頃、瑛貴くんが学校の校外学習で牧場に行った時連れて行ってもらえないのがすごく寂しかったんだ。
　そんなの今考えれば当たり前の事なんだけど。
　大きくなったら連れてってやるからって…瑛貴くん言ってた。

　いっぱい色々と瑛貴くんとの小さい約束が散らばっている。
　大きくなったら遊園地も連れて行ってくれるって言ってた。山も。海も。
　…瑛貴くんは忘れてるだろうけど。
　うん、そうしよう。牧場だったらちょっと距離も遠いし朝から夜まできっと一緒にいられる。その日だけは…日和だけの瑛貴くんだ。

　夜10時になって瑛貴くんからの電話が鳴った。
　「も、しもし」
　『ひよ？本当になんでもねぇ？』
　まだ心配してくれてたらしい。
　「うん。何もないよ？戸田、今日も遊びに来てたし」
　『………今日も、か』
　瑛貴くんの声が低くなった。

　…どうしたのかな？
　『戸田、今日の昼休み俺んとこ来たんだけど…』
　「う、うん…知ってる、よ」
　どきんと心臓が跳ねた。
　『何か言われたか？』
　「な、何か、って…？」
　瑛貴くんに大事な人がいるって事…？

　「別に…何も言われてない、よ？」
　『そうか？…それならいいが…』
　瑛貴くんがほっとしたように言ったのに心が苦しくなった。日和には知られたくない…？
　「あ、あのね！ドライブの行き先っ！」
　『うん？』
　「牧場がいいな！…さっき思いついたんだけど！」
　『………ああ…』

　くすと瑛貴くんが笑ったのが聞こえた。
　『大きくなったら連れて行ってやるって言ってたな』
　「瑛貴くん…お、覚えて…っ」
　『お前こそ。まだ小さかったのによく覚えてたな。うん、そうだな、じゃあ牧場にしようか』
　「うん！」
　一つ約束が守られた。
　覚えてくれてて頷いてくれたのが嬉しい。

　…あの約束は…？覚えてる…？
　そう聞いてみたいけど怖い。
　日和は一人で首を振った。
　『どうする？今度の日曜にするか？』
　「……いいの…？瑛貴くん…用事ない？」
　『なんもねぇよ』
　……よかった。
　「…うん」

　『海も山も約束してたな。あと遊園地に…テーマパークに、あとどこだ？ああ、温泉もあったか？』
　「……そ、そんなに…あったっけ…？海とか山とかは覚えてるけど…」
　『テレビでどこかが映るたびにひよがここ行ってみたい！って騒いでた』
　う～わ～…恥かしい…。
　「あの…そこらへんは…いいよ…」
　くすくすと瑛貴くんが笑ってる。

　『別にいいぞ？俺も大人になったし、いくらでもひよの我儘きいてやれるようになったからな』
　どうしてそんな甘い事言うの？
　そんな事言われたら…もっと我儘になってしまいたくなる。
　でもなっちゃだめ。図に乗っちゃダメ。瑛貴くんがいなくなっちゃったらやだ。
　『高速混む前に早めに出発かな。ひよは早起きは出来るもんな？』
　「うん。大丈夫」

　ほんと…何も言わなくても日和の事なんて瑛貴くんは全部分かってるんだ。
　『あと車で寝ててもいいし』
　そんな勿体無い事なんてしないのに。瑛貴くんといられるなら顔見て話してるほうがずっといい。
　『じゃ日曜日決定な』
　「うん」
　嬉しい…。日和の中ではドライブデートだ。
　瑛貴くんにとっては子守の延長かもしれないけど。

　『ひよ…戸田には言ってないんだな？』
　「え…？あ、…瑛貴くんの事…？うん。言ってないよ」
　『…戸田の仲いい女子っているか？』
　「仲いい…？特に誰と…ってわけじゃないと思うけど？」　
　『…やっぱり』
　「なぁに？」
　『なんでもねぇよ。じゃ、ひよは寝ろ。日曜日ドタキャンなんかするなよ？』
　「しないもん！」
　何があったって行くにきまってる！

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続きに拍手コメお返事です^^