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約束。 31

 瑛貴くんが戸田に言ったという大事な人の存在がすごく気になったけど、聞けるはずもなくそのまま日曜日になった。

 瑛貴くんと出かけてくると言えばお母さんは安心みたいで瑛貴くんが迎えに来てくれるとよろしくと頭を下げながら送り出された。
 「ひよ寝てていいぞ」
 「起きたばっかなのに寝ないよ」
 瑛貴くんの車の助手席が嬉しい。
 車を運転する瑛貴くんの骨ばった大きい手とか、筋張った腕とか…。

 距離が近くて嬉しい。
 …でも今日だけにしといた方がいいんだろう…。
 戸田に大事な人がいるって言った位じゃ、日和の事なんて邪魔なはずだもん…。
 「テストも頑張ったな」
 「…うん。どうなるかな、と思ってたけど…普通でよかった!」
 ぎりぎりで学校に受かった位だと思うけど、テストでは頑張って平均点位は取れたのにすごくほっとした。

 「赤点ばっかりだったらどうしようかとすごく不安だったけど」
 「ひよが真面目にちゃんと頑張ったからだよ」
 「………うん」
 瑛貴くんに誉められて嬉しくてはにかむ。
 無理して入ってよかった!きっとそうじゃなかったらこうして瑛貴くんの横にいる事も出来なかっただろう。
 「学校も…楽しそうだな」
 「うん。…よかった、って思う」
 「そっか…」

 瑛貴くんが手を伸ばしてきて日和の頭を撫でてくれたのにうわ!とどきっとしてしまう。
 「……好きな子とか彼女とか出来たか?」
 「……………いないよ」
 ひやっと日和の温度が下がった。
 そんなのできるはずない!
 …日和が好きなのは瑛貴くん一人なのに。
 「いないのか?」
 「いないよっ」

 そんな事…瑛貴くんの前で言えるはずないもん!
 「瑛貴くんこそ!僕なんかと…」
 「うん?俺?俺はいいんだよ」
 くっと瑛貴くんが笑う。
 「今んとこはひよがいればいいかな…」
 「え?」
 ど、ど、どうして…?
 だって…大事な人いるって…言ってたって…それなのに、なんで?
 それにそんな事言われたら…。
 かぁっと日和の顔が熱くなってくる。

 「……ひよ?」
 「な、な、何?」
 「……………いや、なんでもねぇけど…」
 くすっと瑛貴くんが笑った。…笑われてばっかりだ。
 「……戸田におかしいとこないか?」
 「おかしいとこ?……どうかしたの?何か問題?」
 「いや、そうじゃねぇけど…お前と二人でいて変じゃないか?」

 「変……?ん~……なんか呻いたりしてる時はあるけど」
 「………やっぱ?」
 「え?なにか問題でもあるの?」
 瑛貴くんのとこに相談に行った位だし…。
 「僕…何も聞いてない…」
 「ああ、いいんだよ………葛藤中か…」
 「???」

 「でもそうすると…」
 ちらと瑛貴くんが日和の顔を見る。
 「うーん…」
 「何!?なんか…戸田も瑛貴くんも何も言ってくれない!」
 「そりゃあ…言えねぇだろ…」
 「ど、どうして!?」
 「どうしても。ひよは気にしなくていいぞ」
 「気にするっ」
 なんなの?

 「別に問題あるわけじゃなくて戸田の中の事だからホント、ひよは気にしないでそのままでいい」
 「戸田の中の事…?」
 「そ」
 「………全然分かんない!」
 「ひよは変わらない…。それでいいんだ」
 なんかホントわかんないけど…。瑛貴くんがそう言って苦笑しながらまた日和の頭を撫でてくれる。
 気にしなくていいって言われても気になる。

 「僕の事…戸田は色々気にしてくれるのに…僕は全然分かってない…」
 「戸田がそれでいいんだからいいんだよ。いいけど、ひよ。戸田の事気にしすぎ。今は戸田の事はいいから」
 瑛貴くんが先に聞いて来たのに…。
 でも確かに!今は瑛貴くんが隣にいるんだ。
 …今日は先生じゃなくて日和だけの瑛貴くんでいいはず。

 瑛貴くんの運転する車は日曜でそれなりに交通量はあるけどスムーズに高速を乗って隣県の牧場に着いた。
 「日和も校外学習で来た?」
 「…うん」
 瑛貴くんが校外学習行ったのは日和が瑛貴くんに懐いてすぐの頃だった。いなくなるというのが寂しくて泣いていた記憶がある。その後自分が中学になってやっぱり校外学習があって思い出した事だったけど…。
 日和は校外学習だって学校だって中学校の頃はなんでも苦痛で仕方なかった。そんな事今はもう思い出したくもないけれど…。

 車から降りて広い緑の中で腕を伸ばして伸びをするのが気持ちいい。
 ふと横を向けば隣には瑛貴くんがいるしもうそれだけで気分がいいに決まってる。
 「ひよ」
 瑛貴くんが日和を呼んで肩を抱き寄せられて日和の心臓が跳ね上がった。
 「迷子なるなよ」
 「そんな子供じゃないですっ」
 どれだけ小さいと思ってるんだろ!これでも大きくなったのに!

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