はのんのBL部屋

　小さいひよとした約束の一つ。
　大きくなったら…がいつも合言葉のようだったけど。
　瑛貴が校外学習で一泊だか二泊だかいなくなるという前日にひよが離れなかった。
　大きくなったら連れて行ってやるからと宥めるのがいつもだった。
　それをひよも覚えてたなんて…。

　肩を抱いたひよはもう大きい。…って、相変わらず細っこいけど。
　小さな子供じゃない。
　それでも可愛いに未だ変わりないってのは盲目的だろうか？
　いや、戸田もやっぱりひよの事を特別に思っているらしい。戸田の気持ちが手に取るように瑛貴にも分かってしまう。

　きっとひよは純粋に友達として戸田の存在が嬉しいんだろう。そして戸田もそれが分かってるから葛藤中に違いない。
　…でも戸田はひよが好きなやつがいるって言っていた。でもひよはいない、って。
　戸田が勘違いでもしているのか？それならそうで放っておいた方がいいか。
　問題は瑛貴の方だ。
　ひよの目には瑛貴はどう映っているのか？

　それに約束…。
　こんな牧場の事を覚えているならもしかしたらあの時の事も覚えているんじゃないのか？
　肩に手を回したひよの顔をじっと見ているとひよがぱっと顔を上げて瑛貴を見た。
　「なぁに？」
　仄かに顔を赤くして頭を傾げながら聞いてくるのが可愛い…。
　コイツ自分が可愛いの知ってるのか？

　「……なんでもねぇよ。牛のチチ絞りするか？」
　「………ちょっと怖いんだけど…だって牛…大きい…」
　歩いていくと牛の乳搾り体験コーナーとか、乗馬体験とか色々な事をやている。
　「ひよはなんでも怖がりだからなぁ」
　「小さい頃よりは少しはましになったと思うけど！」
　「ホントかぁ？」

　顔が小さくて目がくりっとして大きめのベストにジーンズの裾折って…ちょっとボーイッシュな女の子に見えなくもないような…。
　声も高めなんだよな…。
　まぁいいや。ひよはひよだ。
　チチ絞りして、ソフトクリーム食べて、普段見ない広い緑の絨毯の中を歩いて、ひよが嬉しそうにしてるのを見ているのが楽しい。
　…そうなんだよな…。ひよが嬉しそうにしてるのが瑛貴も嬉しいと思う。

　「瑛貴くん！馬！」
　ほら！とひよが瑛貴の腕を引っ張りながら指差す。柵で囲われた乗馬コーナーに人が並んでいる。
　「乗る？」
　「…のらな～い！怖いもん！近くで見ると大きいんだよ！」
　「知ってるって。…ほら、怖がりだろ？ひよにはポニーがいいか？」
　「………」
　口をちょっと尖らせるひよに笑ってしまう。

　小さい子を連れた家族連れもいっぱいで広い野原でサッカーしたり遊んでいる中をゆっくり歩く。
　「のんびり…いいね」
　ひよが瑛貴の腕にぶら下がるように掴まりながら笑っていた。
　今日は緊張は大分なくなったのかひよはよく触ってくる。
　昔はくっ付いてるのが当たり前だったから少しは感覚が戻ってきたのだろうか？
　自分から離れていたのにこうしてひよが手元に戻ってきたのにほっとしているなんて…。
　お昼もひよが遠慮するのを食べさせて、…全部を甘やかせたくなる。

　「ごちそうさま…です」
　「うん」
　小さくひよが言うのも可愛い。
　「……天気…曇ってきたな」
　薄暗い雲が広がってきて家族連れも次々と帰っていくようだ。
　もっといたい、と言わんばかりにひよがぎゅっと腕にすがってくるけど、雲が見る間に黒くなってくる。

　「ひよ…帰るぞ」
　「…………うん」
　「…また来ればいいだろ。いつでも来られるから」
　「……………ん」
　顔を俯けて小さく頷くけど、しゅんとしている。
　……どうしたんだ？
　とにかく今は雨に濡れさせないようにしないと。
　ひよを抱え込むようにして車まで戻った。
　車に乗ってすぐに大粒の雨がフロントガラスを叩き始める。

　「ギリだったな」
　「…うん」
　ひよが寂しそう…？
　「ひよ？どうした？」
　「え？何が？…別に、どうもしてないけど…」
　そうか…？

　もう少しゆっくりしたい所だったが天気が悪くなったのなら仕方ない、エンジンをかけて車を出す。
　ひよは窓から外を見て名残惜しそうにしていた。
　いつでもいいと言っているのに…。
　ここだけじゃない、ひよとの約束を守るためだったらいくらでもどこでも連れて行ってやるのに。

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続きに拍手コメお返事です～^^