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約束。 34

 「や…だ……」
 いなくならないで!いなくなる位なら我慢するから!
 「ひよ…もう絶対いなくならない」
 瑛貴くんががっしりと日和を抱きしめてくれる。
 「ひよ…ごめんな…」
 瑛貴くんが苦しそうな声で日和の耳元で何度も謝る。
 「もういなくならない…ひよ…ひい…」

 「うー……」
 ひいって呼んでくれるのにますます日和は手に力をこめて瑛貴くんの服を掴んで泣いてしまう。
 「学校もあるしいなくなるわけないだろ」
 「で、も……瑛貴く、ん……僕…見てくんな…くなる…のも…やぁ…」
 「ないよ…ひよ…ひい…ごめん…謝っても謝ってもたりないけど…ひよ…もう絶対いなくならないし…何があってもお前を守ってやる…」
 瑛貴くんが何度も何度も同じ事を呪文のように繰り返して日和の耳元に言ってくれるのに日和も段々と落ち着いてくる。

 「え、いき…くん…いなく、なんない…?」
 ひくっと泣きしゃっくりまで出てきてしまう。
 「ならない」
 「ホント…?」
 「ホント」
 瑛貴くんが車のダッシュボードからティッシュを出して日和の顔を拭いてくれる。
 「……戸田に言った大事な人はお前の事だ。ひよ」

 「…え?」
 ばくんとまた大きく心臓が壊れたように大きく音をたてた。
 「昔から…今も…大事なのはひよだけだ」
 「……嘘…だもん」
 だって瑛貴くんはずっと何年もいなかったもん!日和をずっと一人にしてたもん!
 「……そう言われても仕方ねぇけど…でも本当だ。日和」

 今度は名前呼び!
 かぁっと顔が熱くなってくる。
 「とにかくまず帰ろう…車じゃゆっくり話せねぇから…いい?」
 「………う、…ん…」
 瑛貴くんの大きな手が日和の頬を撫でた。
 そして車をまた高速に乗せる。
 いい、のかな…?

 瑛貴くんから離れるようにして乗ってた助手席だったけどつつっとお尻を移動して運転席の瑛貴くんの方に近づく。
 「ほら」
 瑛貴くんが手を出してきてくれて日和はその瑛貴くんの大きい手を掴んだ。
 それが、瑛貴くんがもう離れないって言ってくれてるみたいに安心出来た。
 瑛貴くんの前で泣くなんてもう数え切れない位で何度も泣き顔を晒してるけど…。それは小さい頃の話で大きくなってもこれって全然成長してないみたい…。

 久しぶりに瑛貴くんが日和の部屋に来た時も大泣きしちゃってるし…。
 でも…瑛貴くんの手がしっかりと日和の手を握ってくれているのに安心してしまう。ちゃんといなくならないって言ってくれてるみたいで…。

 いや!安心……じゃなくて!
 大事な人が日和の事!?
 ちらと窺う様に瑛貴くんに視線を向けた。
 またすぐに心臓が大きくどくどくと鳴ってくる。
 さっき…大事な人が日和の事って言った…よね?
 それに!約束の事も…。
 それって…どういう…事…?

 期待してしまいそうだ!
 ううん…あんまり期待しちゃダメ!
 瑛貴くんは小さい頃の延長でしかないんだから!きっと何度も何度も謝る瑛貴くんは日和から離れた事を後ろめたく思っている…?
 だからこうして連れてきてくれるだけ!
 でも大事って…。

 ぎゅっと日和は瑛貴くんの手を力を入れて握った。
 日和の手とは違う大人の人の大きい手。そして瑛貴くんも力を込めて握り返してくれる。
 …好き、なんだよ…?
 いいの…?
 もっともっと、って思ってるんだよ…?
 ずっと変わらない…。小さい頃から…。おにいちゃんがいればよかった、それが全然変わってないんだ…。
 ううん…もっと強くなった。

 瑛貴くんがいなかった時間が想いを強くしたのかもしれない。
 ずっと足りなくて…。
 もしずっといてくれたらもっと違ったのかな…?
 瑛貴くんの車は雨の中を抜けて瑛貴くんのアパートに向かってるのかな…?
 話するって…。何を?
 約束の事…?
 大事な人の事…?
 大事な人って…本当に日和の事…?
 ……だったらいいのに…。

 日和だって瑛貴くんがいればいい。瑛貴くんがいてくれるならなんでも我慢出来る。
 車の中はずっと無言だったけど、でも瑛貴くんの手からは温もりが伝わってくる。そして高速を降りて一般道に入り、信号で停まる度に瑛貴くんが日和の方を見て視線を合わせてくれる。
 それがすごくくすぐったい。

 …そして抱きつきたくなる。
 小さい頃だったらきっと迷わず抱きついただろうけど…。
 今はダメ。
 …ううん、小さい頃のままのふりしたらいい?
 でも小さい頃のままじゃもう日和は嫌なんだ。

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