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約束。 36

 「………」
 「ひよに約束なんて適当な事言って…そのくせ可愛くてついキスまでして。ダメだろ、って…。………だから逃げた。…ひよから…。一回逃げたら…会うのが怖くなった…ひよに忘れられてたら?…忘れられてなくて同じ目を向けられたら…?ひよをどうにかしてしまいそうな位にな…いっぱいいっぱいになってた…」
 じっと日和も静かに瑛貴くんを見上げる。

 「そのくせやっぱりこっちに戻ってきて…ひよが高校に入ってきた時は驚いた」
 「……がんばったもん…」
 瑛貴くんに会いたくて、会いたくて。
 「僕…本当に…今の高校入るの…学校の先生には無理だって言われてた。でも…頑張ったんだもん…すごく…」
 「…俺がいたから…?」

 「そうだよ!おばさんに瑛貴くんが高校の先生になったって聞いて!じゃあがんばろうって…そしたら…瑛貴くんに会えるからって…運よく受かって…でも瑛貴くん…僕の事なんか見てくれないし…」
 う~…とまた辛かった事を思い出して泣けてくる。
 「ごめん!…ひよ」
 瑛貴くんが苦笑しながら日和の背中や頭を撫でながら宥めてくれる。

 「…まだ足掻いてたんだ…でもひよがあの日声かけてきて…あの日ウチの母親に聞いたけどお前中学校の時にイジメにあってたって…?」
 「ちょっと…ね…別に暴力とか金持って来いとかそういうんじゃなかったし、クラス全員とかそういうのでもなくて、個人的に一人二人に突っかかってこられて…」
 「どんな風に?」

 「…女に生まれた方よかったんじゃないか、とか…キモイとか…うぜぇ、とか…そういう事言われてただけ…」
 「……………そいつ…ひよの事好きだったんじゃねぇの?」
 瑛貴くんの言葉に日和はきょとんとして目を見開いた。
 「は?何言ってるの?ないよそんなの!僕学校行きたくない位だったんだから!」
 「…聞いた。俺がいればひよ守ってやったのに…ごめんな」
 「瑛貴くんは悪くないでしょ!…謝んないでよ…」

 「わりぃ…。聞いたのこの間だったんだ…。全然知らなかったんだ…ひよ」
 「そんなの…いいもん…」
 「よくない…。ひよ…だからもう絶対何があってもひよの傍にいる。ひよを守るから…」
 「どうして…?」
 「ひよが大事だっていっただろう…?ずっと逃げてた根性無しだけどな…」
 瑛貴くんが自嘲を浮べながら日和をじっと見つめていた。

 「ずっとひよを放って…自分が楽な方に逃げてた…ひよの事を何も考えずに…。ひよは小さかったしきっともう俺の事なんてなんとも思ってないはず、そう自分に思いこませてた」
 「ない!…僕…イジメられてたのだって辛かったけど、それ以上に瑛貴くんいないほう辛かったし…寂しかった…」
 「ひよ…」
 瑛貴くんがぎゅっと今までの分を埋め合わせるかのように抱きしめてくれるのに日和は身を任せた。

 「…僕…瑛貴くん…好きでも…いい…?」
 もう約束の事だって言っちゃった後では出してもいい…?
 「ああ…ひよ…日和。俺も…ずっと好きなのも大事なのもお前だけだ。小さい頃からずっとな…」
 「ほ、…ほんと…に…?」
 「ああ。じゃなきゃお前…小さいのにキスなんかするか!どこの変態だよ。…ったく…!……んでも昔より大きくなったといってもまだひよは高校一年生だしまだまだ変態の域だけどな…あげくに俺の生徒だ…マズイだろ」

 「マズくない!」
 「マズいに決まってるだろ!アホ!」
 「…………あほ…」
 むぅっと日和が口を尖らせる。
 「……でもそれ以上にひよの事は大事だし守ってやりたい。バレたって何したってひよを守られるならいい。今まで離れてた分も…取り戻すなんて事はできないが…離れた分甘えていい」

 「……いいの…?」
 「ああ」
 瑛貴くんがくすりと笑ったのに日和は瑛貴くんの首に腕を巻きつけて抱きついた。
 「瑛貴くんっ……」
 よしよしと瑛貴くんの手が日和の背中を子供の時のように優しく叩いてくれる。
 「ひよ…」
 耳元に優しく響く声が嬉しい。

 …夢?
 約束の事を覚えてくれていただけじゃなくてまさか本当に日和の事を考えてくれてたなんて思いもしなかった。
 「瑛貴くん…瑛貴くん…」
 好き…。
 「ひよ…離れないから…安心しろ…な?」
 「うん……」

 今までも何度も何度も離れていた事を瑛貴くんは謝っていた。それくらい後悔してくれてたって事?
 だったらもういい…。
 これから先こうしてくれるならもう全然平気だ。

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