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約束。 43

 「本屋寄って行かね?」
 「いいよ」
 学校の帰りの途中の乗り換えの駅で戸田が提案してきたのに日和も頷いた。
 「そういえば僕もずっと本屋さん行ってなかった」
 「高宮はその方いいんじゃねぇの?」
 「……うん」
 戸田に詳しく話した事はなかったんだけど、日和にあった事をうすうす戸田は気付いてるらしい。

 「この間借りたのも面白かった!高宮に勧められるの面白いのばっかだ!」
 「そう?」
 そんな風に言ってもらえるのも嬉しいな、と思う。
 瑛貴くんも戸田もちゃんと言葉にして言ってくれるからすごく安心出来るんだ。
 とげとげしい所も全然なくて日和の事ばっかり気にしている気もしないでもないけど、でも心無い毒の言葉を向けられるよりもずっといいに決まってる。
 自分だけがいい思いをさせてもらっているみたいな気もしちゃうけど。

 「高宮、小説のほう見てる?俺ちょっと漫画の方行ってくる」
 「うん」
 本屋の中で戸田と別れ店頭に並んでいる本を手に取って眺めた。
 中学校の頃はあんなに本ばっかり読んでたのに…今はそれほどでもない。
 それでもやっぱり本は好きなので見ていると欲しくなってしまう。買っちゃおうかどうしようかなと店頭に並ぶ本を見てちょっとばかり悩んでいた。

 「ああ?もしかして高宮じゃね?」
 声をかけられて、その声にどきりとしながらゆっくり日和は顔を声のした方、背後を振り返った。
 自分とは違う制服。
 でも見知った顔…。
 「……っ!」
 日和は小さく息を呑んだ。

 「やっぱり!奇遇だなぁ?」
 戸田位大きい身体のそいつが日和の肩を組んできた。
 「は、離して…」
 どうしよう!嫌だ!
 「別になんもしてねぇだろ」
 苛立ったような声に日和は恐怖で動悸が激しくなってくる。どうして、こんな所で会わなきゃないんだ…。体が竦んで声も出ない。

 瑛貴くん…。
 心の中で助けを求めてしまう。
 大丈夫、前とは違う!今は瑛貴くんがちゃんといてくれるから。
 「高宮、一人?」
 「ち、ちが…」
 戸田がいる…。逃げたい。どうすれば…。
 相手にぎっちりと掴まれている組まれた日和の肩が震える。

 「何?高宮、震えてんのぉ?…別に何してるわけでもねぇだろ?」
 「おい!何してんだ!」
 戸田の声!
 思わず日和がほっとして息を小さく吐き出すと日和を掴んでいるヤツ、大村が戸田の方を振り返った。
 「ああん?テメーこそなんだ?」
 「戸田…」

 戸田が来てくれた事にほっとしてしまう。
 「高宮、こっち来い」
 戸田は日和の強張った表情を読んでくれたらしく手を差し出してくれたのに日和はほっとして大村の腕を払い戸田の方に行こうとした。
 「おいっ!」
 「や!」
 「高宮!」
 大村が逃れようとした日和の肩を後ろから掴んで来たのに体が竦むと戸田が一歩踏み出してくる。

 「テメーはすっこんでろ!」
 「んなわけいかねぇ!」
 戸田と大村が睨み合っていた。
 周りにいた本屋さんのお客さんが不穏な空気に後ずさっていく。

 「君達っ」
 本屋さんの店員さんが飛んできて声をかけてきたけれど戸田と大村の睨み合いはそのまま。
 「は、なし…て…」
 小さく日和が訴えてもますます大村の手に力が入って強く日和の肩を掴んでくる。
 「高宮を放せ」
 「だからテメーに言われる筋合いねぇっつってんだろ!」

 大きな大村の声に日和はびくっとして体を縮める顔を覆う。
 どうしたらいいの…?
 体が竦んで何も出来ない自分が嫌いだ。
 「別になんもしてねぇだろうが」
 「高宮が嫌がってんは分かる!」
 「ああん?そう?」
 大村の声がますます苛立ってきている。

 「君達、やめなさい!警察呼ぶよ」
 「うるせぇ!」
 「高宮!」
 「あっ!てめぇっ!」
 「やめなさいっ!」
 声が狭い通路で入り乱れる。
 日和が大村から離れて戸田の方に行こうとしたら大村が戸田に殴りかかってきた。

 「やぁっ!」
 やめて!戸田は関係ないのに!
 「てめっ!」
 「高宮!こっち!」
 戸田が日和の腕を掴んで引っ張ってくれたけど大村が殴りかかってくる。
 「戸田っ!危ない!」
 咄嗟に戸田の前に日和が出ると日和の体が飛んだ。
 「高宮っ!」

 がつっと額に衝撃が走る。
 「警察電話して!」
 キャーという悲鳴や騒然とした空気を感じながら日和は痛む頭を押さえた。
 「高宮!」
 戸田が心配そうな顔で倒れた日和に駆け寄り、大村が何人かの男の人達に抑えられていた。

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