--.--.--(--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2012.08.10(金)
午前中はうだる暑さの中買い物にスーパーに出かけた。
「二階堂 怜がスーパーで買い物…」
明羅は小さく呟きながら怜を見た。
Tシャツにジーンズ。一応外に出かけるからと髭も剃ったし髪もぼさぼさではないが、ルーズではあった。
燕尾服を着てびしっとというイメージはどこを見てもない。
でもこれだったらスーパーにいてもおかしくはない、と不思議な感じだ。
店からちょっと荷物を運ぶだけでも汗が吹き出る。
「う~~…暑い。……お前は涼しそうだな」
「暑いに決まってるでしょ」
「どっかで飯でもと思ったが…これじゃ買った食材が茹で上がっちまうな」
外の気温は何度なのだろうか?
結局そのまま怜の家に戻ってきた。
「暑い…昼は麺だな。蕎麦かそうめん。なんか乾麺があったはず」
怜がごそごそと棚を漁っていた。
「茹でるだけだからお前座ってていいぞ」
「……見てる」
明羅は何がどうして料理になるのか分からない。怜がする事を見てるのだけでも飽きはしなかった。
「あっそ?」
「うん」
邪魔にならないようにちょっと離れた所から見てることにする。
包丁で器用に葱を切って、ぐつぐつのお湯に棒切れを入れると蕎麦になった。
火は使うし包丁は使うし、明羅はいつもはらはらする。
母親は怪我したら大変だと料理はした事がない。
だから普通にしている怜が不思議で仕方なかった。
「箸出せ」
怜に言われてもう場所を覚えた明羅は箸を用意した。
あとはお水?
冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップに注ぐ。
「お?気が利くな」
怜の何気ない言葉が嬉しい。
そんな当たり前の事でも怜は明羅を見てくれていた。
「いただきます…」
いつも申し訳ないと思いながらご馳走になる。
「ねぇ…聞いてもいい、のかな?」
「何が?」
「師事した先生って誰?」
「これがいないんだな」
「はい?」
「教わったのは山ほどいる。国内有名ピアニストから音大の教授まで。海外にも多数。だが誰、というのはいない。しいてあげれば子供の時に通ったピアノ教室の先生位。近所の」
家はここじゃなかったけどな、と怜は笑う。
「だから後ろ盾もしがらみもなんもない」
それでコンクールの入賞…。
音楽の世界、ピアノの世界なんてわりと狭いのだ。
国内有名ピアニストにも教わった…。だとしたらやっぱり…。
明羅は小さく頷いた。
もしかしたらショパンコンクールの前にレッスンをみたのかもしれない。だから明羅が怜のガラコンサートに行ったのかもと繋がった。
片付けは明羅の仕事。
少しでもやる事があるというのは嬉しい事だった。
「片付けしなくていいの楽だな」
明羅がコーヒーを入れて持っていけばさらには上機嫌な様子だ。
それを見れば明羅だって嬉しくなるのだ。
怜はまた楽譜を眺めている。
何を見てるのかと明羅もソファの隣に座って覗きこんだ。
「…愛の夢」
「そ。お前にダメだし喰らったから」
「だからダメじゃないってば」
「分かってる。でもお前を唸らせたいと思って」
明羅はくすっと笑った。
「唸りっぱなしなのに」
「そうかぁ?毎年いつも睨んでたぞ」
「………真剣って言ってほしいけど」
睨むって…。確かにそうかもしれないけど。
怜が<愛の夢>の楽譜を明羅に渡して自分はピアノの蓋を開けた。
「譜面台も取って。蓋も開けて?」
「…………コレ重いんだぞ?」
天板をコンサートのように開けた。
音の響きがこれで全然変わってくる。
「なんだ緊張するじゃないか」
全然緊張もない口調で怜がおどけた。
怜がハノン、スケールと指馴らしの間明羅は怜の<愛の夢>の楽譜を眺めた。
色々書き込んである。
和音記号から弾き方まで。
明羅は口端が緩んでしまう。
二階堂 怜の楽譜。
同じ楽譜を明羅も持っている。でも中に書いてある事が全然違う。
こんな事になるなんて想像もしなかった。
怜の音が溢れる部屋で聴衆は明羅一人。そして手には怜の楽譜。
怜にご飯を食べさせてもらって、一緒に寝て………。
なんかおかしくないか?とはたと明羅は思った。
朝から晩まで一緒にいて。
…………。
怜と明羅の関係ってナニ?
明羅は自分で首を捻った。