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熱視線 熱情~パッション~1

 午前中はうだる暑さの中買い物にスーパーに出かけた。
 「二階堂 怜がスーパーで買い物…」
 明羅は小さく呟きながら怜を見た。
 Tシャツにジーンズ。一応外に出かけるからと髭も剃ったし髪もぼさぼさではないが、ルーズではあった。
 燕尾服を着てびしっとというイメージはどこを見てもない。

 でもこれだったらスーパーにいてもおかしくはない、と不思議な感じだ。
 店からちょっと荷物を運ぶだけでも汗が吹き出る。
 「う~~…暑い。……お前は涼しそうだな」
 「暑いに決まってるでしょ」
 「どっかで飯でもと思ったが…これじゃ買った食材が茹で上がっちまうな」
 外の気温は何度なのだろうか?
 
 結局そのまま怜の家に戻ってきた。
 「暑い…昼は麺だな。蕎麦かそうめん。なんか乾麺があったはず」
 怜がごそごそと棚を漁っていた。
 「茹でるだけだからお前座ってていいぞ」
 「……見てる」
 明羅は何がどうして料理になるのか分からない。怜がする事を見てるのだけでも飽きはしなかった。
 「あっそ?」
 「うん」
 邪魔にならないようにちょっと離れた所から見てることにする。
 包丁で器用に葱を切って、ぐつぐつのお湯に棒切れを入れると蕎麦になった。
 火は使うし包丁は使うし、明羅はいつもはらはらする。
 母親は怪我したら大変だと料理はした事がない。
 だから普通にしている怜が不思議で仕方なかった。
 「箸出せ」
 怜に言われてもう場所を覚えた明羅は箸を用意した。
 あとはお水?
 冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップに注ぐ。
 「お?気が利くな」
 怜の何気ない言葉が嬉しい。
 そんな当たり前の事でも怜は明羅を見てくれていた。
 
 「いただきます…」
 いつも申し訳ないと思いながらご馳走になる。
 「ねぇ…聞いてもいい、のかな?」
 「何が?」
 「師事した先生って誰?」
 「これがいないんだな」
 「はい?」
 「教わったのは山ほどいる。国内有名ピアニストから音大の教授まで。海外にも多数。だが誰、というのはいない。しいてあげれば子供の時に通ったピアノ教室の先生位。近所の」
 家はここじゃなかったけどな、と怜は笑う。
 「だから後ろ盾もしがらみもなんもない」
 それでコンクールの入賞…。

 音楽の世界、ピアノの世界なんてわりと狭いのだ。
 国内有名ピアニストにも教わった…。だとしたらやっぱり…。
 明羅は小さく頷いた。
 もしかしたらショパンコンクールの前にレッスンをみたのかもしれない。だから明羅が怜のガラコンサートに行ったのかもと繋がった。
 
 片付けは明羅の仕事。
 少しでもやる事があるというのは嬉しい事だった。
 「片付けしなくていいの楽だな」
 明羅がコーヒーを入れて持っていけばさらには上機嫌な様子だ。
 それを見れば明羅だって嬉しくなるのだ。
 怜はまた楽譜を眺めている。
 何を見てるのかと明羅もソファの隣に座って覗きこんだ。

 「…愛の夢」
 「そ。お前にダメだし喰らったから」
 「だからダメじゃないってば」
 「分かってる。でもお前を唸らせたいと思って」
 明羅はくすっと笑った。
 「唸りっぱなしなのに」
 「そうかぁ?毎年いつも睨んでたぞ」
 「………真剣って言ってほしいけど」
 睨むって…。確かにそうかもしれないけど。
 
 怜が<愛の夢>の楽譜を明羅に渡して自分はピアノの蓋を開けた。
 「譜面台も取って。蓋も開けて?」
 「…………コレ重いんだぞ?」
 天板をコンサートのように開けた。
 音の響きがこれで全然変わってくる。
 「なんだ緊張するじゃないか」
 全然緊張もない口調で怜がおどけた。

 怜がハノン、スケールと指馴らしの間明羅は怜の<愛の夢>の楽譜を眺めた。
 色々書き込んである。
 和音記号から弾き方まで。
 明羅は口端が緩んでしまう。
 二階堂 怜の楽譜。
 同じ楽譜を明羅も持っている。でも中に書いてある事が全然違う。
 こんな事になるなんて想像もしなかった。
 怜の音が溢れる部屋で聴衆は明羅一人。そして手には怜の楽譜。
 怜にご飯を食べさせてもらって、一緒に寝て………。
 なんかおかしくないか?とはたと明羅は思った。
 朝から晩まで一緒にいて。
 …………。
 怜と明羅の関係ってナニ?
 明羅は自分で首を捻った。

 

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