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約束。 46

 日がくれて瑛貴くんがまた来てくれた。
 「瑛貴くん、ご飯食べていって!お隣がお家だけど…」
 「家は隣ですけどね…家行くと母親アレコレうるさいから」
 瑛貴くんは自分の育った家には行く気がないらしいのに日和も笑ってしまう。

 「でも…生徒の家なんだけど…いいのかな…」
 「いいのよ!今は先生の瑛貴くんじゃなくてお隣の瑛貴くんで」
 軽くお母さんも言う。
 「だよね!!!だって先生の瑛貴くんよりお隣のお兄ちゃんの方ずっと長いもん!」
 日和もすぐに同意する。

 「そこがまた微妙なんだけど…」
 「いいの!瑛貴くんご飯まで僕の部屋いこ」
 ぐいぐいと瑛貴くんを引っ張って二階に連れて行く。だってお母さんがいたらくっ付けないもん。
 いくらなんだってそこは日和だって分かる。
 「ご飯出来たら呼ぶね」
 「はぁい」
 後ろからのお母さんの声に日和が返事するとくっくっと瑛貴くんが笑っている。

 「ホント…可愛い親子だよな…」
 「……それ小さいからって事?」
 「ちげぇって!…あ、でもちょっとはそれもあるかな…」
 「もう!」
 階段を上りながら日和の前を登っている瑛貴くんの背中を叩く。

 「ひよ」
 ふざけながら日和の部屋に入って、でも入ってドアを閉めた途端に瑛貴くんが日和を抱きしめてきた。
 「え、え、瑛貴…くん…?」
 抱きしめられるなんて予想してなくて一気に体温が上昇してしまう。
 「心配した…。本当に大丈夫か…?」
 「…大丈夫だってば。もう…戸田も瑛貴くんも心配しすぎ!」

 さっきまでふざけてたのに瑛貴くんの表情が真剣に日和を見て、そして傷の所にそっと触れた。
 「俺がいりゃ怪我なんかさせないのに…」
 「もう…いいってば…。いいけど…瑛貴くん…」
 このまま抱っこしててほしいな、とすりと瑛貴くんに擦り寄れば瑛貴くんが優しく背中を撫でてくれる。
 「僕…全然平気。瑛貴くんがいてくれれば…こうしてくれれば…」
 「…俺は全然平気じゃないけどな」

 「ん?」
 「ひよ」
 瑛貴くんが顔を近づけてきてちょんと軽くキスした。
 かっと顔が真っ赤になってる!…はず。
 キス!
 「…悪い先生だよな…」
 「悪くない!」
 「………悪くないんだ?」
 「…ないよ」

 ……もっとして欲しい位って言ったら瑛貴くんはどう思うんだろう?
 日和のくせに…まだ子供のくせにって思うのかな…。
 「…戸田が瑛貴くん怒ってなかったかって心配してた」
 「ほんとダメな使えねぇヤツだな。ひよに怪我させるなんて!」
 「戸田庇ってくれたよ」
 「そりゃ当然だ!でもひよが怪我してんだ」
 当然だって…。

 「…俺がいつでもひよの傍にいてやれればいいのにな」
 瑛貴くんの呟きが日和の耳に響く。
 「そんなの!…だから!こうしてくれてれば全然いいもん。怪我だって!僕だって一応男だし、別になんてことないよ」
 「なくはない」

 「もう!………僕、本当に全然大丈夫だよ?…ホントに…かえって嬉しいんだ、今は…中学校の時はあんなにつらいって思ってたけど、今は全然」
 「………そうか」
 瑛貴くんがくすと笑みを浮かべて日和の頬を撫で、その瑛貴くんの手に日和も自分の手を重ねた。

 「瑛貴くん…好き…」
 こうしてついていてくれるのが嬉しい。
 「…俺もひよが好きだ。…そして何よりも一番大事なんだ…。怪我って聞いてどれだけ驚いたか…」
 はぁ、と瑛貴くんが大きく溜息を吐き出した。
 「電話来て俺は学校飛び出してたぞ?」
 「………え、っと…大丈夫…?」

 「とりあえずな。まぁお前達に否はないし…それよりも…謝りに来た時もだけど…」
 瑛貴くんが大村の事を言おうとすると日和の表情が強張る。
 「…ひよ…何かあったらすぐ電話…な?怪我も…ひよの顔見るまでホント俺の方が死にそうな位に緊張してた。顔見てとりあえずほっとしたけど…」
 すぐに日和の表情に気付いた瑛貴くんが話題を逸らしてくれ、日和はほっとして瑛貴くんの胸に顔を埋める。
 「僕…弱い…」

 「弱くない。ひよはずっと一人で頑張ってきた。だろ?…今は甘えていいんだ。一人で頑張る事ないから…」
 そんな事言われたら目が潤んできてしまう。
 「今だって…ほんとは我慢してるだろ?縫うような怪我なんかして」
 …瑛貴くんは分かってる。…分かってくれてる。
 だから甘えてしまうんだ。
 瑛貴くんの顔を見たら我慢してた涙がぽろりと零れてくる。
 「俺にまで我慢するな。俺の前でならいくらだって今までも泣いてきたし、頼ってきてただろ?それでいい」
 瑛貴くんが優しく言ってくれる言葉に我慢なんてもろく崩れて瑛貴くんの胸に顔を埋めた。

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