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約束。 52

 瑛貴くんが苦しそうに言葉を吐き出したのに日和はびくりとしてしまう。
 「瑛貴…くん…僕の事…やだ…?」
 「何が!?」
 「めんどくさい?キライ?…また…いなくなっちゃう…?」
 「ならねぇ!って言った!ひよ!」
 「やだ…」

 「ひよ!」
 「我慢するから…大村の事なんて…瑛貴くんいないほうがやだ!」
 「ひよ!日和!」
 瑛貴くんががばりと日和に覆いかぶさるようにしてキスした。
 …キス…してくれる…?まだ…キライじゃない…?

 「えい…き…くん………ん、ぁ…」
 瑛貴くんの腕が日和の体をぎゅうっと力強く抱き締めてくれてさらにキスが深くなってくる。
 「あ…」
 息がしづらい…。はぁ、と息を吐き出そうとしたらもっと瑛貴くんのキスが激しくなってきた。
 舌がっ!
 うそっ!
 大人のキスだ!
 瑛貴くんの舌が日和の舌を絡めて吸い上げられる。
 「んんっ……」

 「ひよ…ひい……」
 瑛貴くんが日和を呼びながらそれでもキスはやめない。何度も瑛貴くんが顔の角度を変えながら日和の口腔を蹂躙してくる。
 「ん…ぁ……」
 初めての大人のキスに日和の身体から力が抜けてくにゃっと脱力してしまう。
 「ひよ…」
 するとやっと瑛貴くんが唇を離してそして日和を抱きしめてくれる。

 「好きだ。離れないと言ったはずだ。…守ってやるとも言った…ひよが…俺を信用してくれないのは…俺が悪いんだが…」
 「ちがう!そうじゃない!信用してないんじゃ…」
 「いや、そうだろう?ひよは全然我儘を言わない…。俺が自分で招いた事だが…」
 「ちが…だって……瑛貴くんに嫌われたくないもんっ」
 「嫌いになんかなるはずない!…ひよ…なんでも言ってくれ?……離れていた時だってひよの事はいつも思っていた…ひよ…我慢なんてしなくていいから…」

 瑛貴くんの胸の中で日和は頭を横に振った。
 だって我慢しなかったらいくらでも我儘言っちゃうもん…。そんな事言ったら瑛貴くんは呆れてしまうに違いない。
 …そんなの言えるはずない…。
 …でも今こうしてわざわざ遅い時間なのに来てくれて…と思えばやっぱり嬉しい。
 「…瑛貴くん…」
 ずっと不安だった心が瑛貴くんが来てくれただけで軽くなってくる。

 「ひよ…毎日来てるって?」
 びくっと日和が身体を震わせると瑛貴くんがさらにぎゅっと抱きしめてくれた。
 「…いる…。でも…別に…何もないし…」
 「何もなくても………ひよ…ちょっとおいで」
 瑛貴くんがそう言って日和の肩を抱いたまま日和の部屋を出て階段を下りていく。
 「瑛貴くん………日和、大丈夫?」
 「…うん」

 リビングで心配そうにしながら待っていたお母さんとお父さんにこくんと日和が頷く。
 「…おじさん、おばさん、…日和を少しの間俺のところで預からせてくれませんか?」
 「え?」
 日和と両親が声を揃えて、そして瑛貴くんを凝視した。
 「こんな事…言うのも…おこがましいですけど……何もないとは言うけど、でもこのままじゃ日和が…」
 「でも…」
 「日和が家にいないと分かれば来なくなるかもしれない。…警察に言っても…」

 「やだ!」
 警察にという言葉に反応してふるふると日和が首を振る。
 「…警察に言っても多分何もされてない今では対処してもらえないはず…。せいぜい注意位でしょうし…なにより日和がその後の事を怖がっている。エスカレートしないとも言い切れない…。だったら少し離れてみてどう出るか見た方が…もしそれで彼が何かしてくるようだったらその時は警察に。…彼が何を思っているのかは分からないですが…俺も仕事は早く切り上げてなるべく日和の傍にいるようにします。幸い明日は金曜日で土日は休みですし」

 日和がぎゅっと瑛貴くんの袖を掴んで離さない手をお母さんが見ていた。
 「…瑛貴くん…いい?…日和はずっと小さい頃から瑛貴くん、瑛貴くんって…」
 「はい…勿論…」
 くすと瑛貴くんが笑った。
 「きちんと責任を持って預からせていただきます」
 「…日和は…?その方いい…?」
 「…………うん…出来れば…今…僕…家いるの…怖い…」

 瑛貴くんのそばなら安心出来る。
 「そうよね…ずっと小さい頃から瑛貴くんが面倒見てくれて…」
 「見てたってほどじゃないですよ。日和は大人しくて可愛かったし。……明日迎えに来ます。…いいですか?」
 お願いします、と両親が頭を下げてたけど聞いていた日和は目が回りそうだ。
 瑛貴くんちに…?ほんとに…?
 不謹慎だけど…内心喜んでしまった。

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