「そ、宗…」
「綺麗になっただろ?」
何も変わってないけど全体的にすっきりしているのは分かった。
でも、問題はそこじゃなくて。
「お前綺麗にしてるしそんなにすることなかったけど」
「ううん、ありがとう…それはいい、んだけど…」
冷蔵庫に食材が色々詰まっているし、歯磨き粉とかシャンプーとかいる物、使う物が買ってあった。
「使うだろ?」
「……だけど、いいって言ったのに…」
「今日は瑞希料理いいから。テイクアウト買ってきた。あ、冷蔵と冷凍はどれがどれか分かんねぇからして?」
買ってきてしまったものはどうしようもなくて瑞希は肉など選別して冷凍出来るものは冷凍庫に入れた。
なんか、しかも、値段が…瑞希が見た事ない値だ。
なんでも瑞希は安い物にしか買わない。だって買えないから。
それなのに…。
「…困るよ…」
瑞希が呟いて顔を俯けた。
「なんで?余計な事だったか…?」
宗が眉を寄せた。
違うけど…。
「…気にするな、って言っただろう?」
気にしないわけないじゃないか。
宗の買ってきてくれたテイクアウトのもので夕ご飯にする。
やっぱり瑞希の部屋に、宗に、皿に合っていない。
当然だ。
瑞希はこんな贅沢出来る身分じゃないのだから。
どうしたって言葉が少なくなってしまう。
テイクアウトのだって瑞希が口にできるものじゃない。
「瑞希?疲れたのか?」
「…ううん…」
宗の表情が困惑を訴えていた。
「………瑞希はあんまり嬉しそうじゃないんだな…」
宗がふっと瑞希から顔を背けた。
「違う!…嬉しい、けど…戸惑ってる、だけ、だから…」
「……慣れろ」
それ以上瑞希は何も言えなくて、黙って食事を終えた。
先に宗がシャワーしてるうちに片付けて、瑞希がシャワーを使う。
シャワーを出ると宗がテーブルの前に座っていた。
いつも宗はベッドに座ってるか寝転がってるのが普通なのだが、テーブルに紙袋が置いてあった。
「瑞希、コレ」
「何?………ぁ……」
紙袋を渡されて中を見たらお金だった。
しかも帯がついたのがいくつも入ってる。
「い、いらないっ!」
慌てて瑞希は紙袋を閉じて宗に突き返した。
「……何故?」
「何故じゃないっ!こんな、の…いらないっ…!しかもこんなに!」
「お前が1千万って言ったんだろ?」
「ば、ばかじゃないのっ!俺にそんな価値ないでしょ!」
「は?1千万の価値がない?んなわけないだろ」
「と、とにかく…いらないから!」
「……なんで?俺はお前を買うって言っただろ」
瑞希は黙った。
そうか、買われたんだ…。
そうだよね…別に好きとかじゃないから…。
「…瑞希?」
急に黙った瑞希に宗が怪訝な表情を浮べた。
「買われた俺は何すればいいの?」
「そりゃ明日瑞希は休みだし…。来い」
宗に呼ばれて瑞希は宗に近づく。
宗の腕が瑞希の身体に回ってきて後ろのベッドに押し倒された。
「後ろも柔くなってきたし今日は無理に突っ込む事はしないから」
「…好きにしていいよ」
買われたんだから。
買われたんだ…それなのに、瑞希は宗が自分を抱くつもりなのだと分かれば嬉しいと思ってしまう。
ずっと瑞希だけされてたのが嫌だった。
その宗が、男に興味ないと言ったのにそれでも瑞希を抱くつもりなのだと分かれば嬉しいとしか思えない。
宗の唇が瑞希のそれに重なった。
キスはもう毎日してた。
キスだって誰ともしたことなんてなかったのに。
でもその度に宗が汚れていくような気がしてならない。それでもしてほしいと思ってしまう。
今だって嬉しい。
宗の手がシャワーを浴びてきたばかりの瑞希の身体を這う。トレーナーを脱がせながら宗の口は瑞希を離さなかった。
「ふ……」
宗の舌が瑞希の舌を捕らえて離さない。
飢えたように瑞希を吸い上げる。
それにどうしても声が漏れてしまう。
「や…声、出る……」
「大丈夫だ。隣は実家に帰ってるから」
「…え?」
「今日荷物抱えて出かける所に会ったんだ。3日まで帰ってこない」
宗がご近所付き合いまでしてたらしい。
瑞希など隣の人と会った事もなかったのだけど。
「だから声出していい。安心しろ」
宗がくっと笑って瑞希の首に唇を這わせてきた。
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