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約束。 59

 日和の携帯が聞きなれた音を出した。

 今!?なんで!?
 誰だよ!
 「………ひよ」
 電話、と瑛貴くんがじっと日和の顔を見つめた後、日和の上からよけて体を起こしてくれた。
 邪魔したのは…母親だった。別に電話なんて気付かなかったって後からかけてもいいのに、瑛貴くんの目が電話を取れ、と言ってる。

 「…………もしもし……え?…………そう…あ、うん……ちょっと待って。…瑛貴くん、…お母さんから…」
 何となく気まずい感じで瑛貴くんに電話を渡した。
 「もしもしお電話変わりました。はい…来た?………ええ…」
 大村が来て、お母さんが見つけて外に出たら逃げようとしたので日和は知り合いの家にしばらく行くからここにいないと叫んで教えてやったらしい。

 大村は信じる?信じない?でも本当にこうして日和は今瑛貴くんと一緒にいて家にいないんだ。
 家にいたら大村の姿に震えていただろうに…今体が震えてたのは気持ちよすぎてだ…。
 そんな事思ってしまってかっと顔を赤くしてしまう。
 「…ひよ」
 瑛貴くんが話しが終わって電話を耳元に返してくれたのを受け取った。

 「もしもし?…大丈夫だよ。……うん…じゃあね」
 どうしたのかな?
 電話を切って瑛貴くんを見たら隣で瑛貴くんは片手で顔を包むようにして項垂れていた。
 日和は電話を切ってテーブルに置き、瑛貴くんににじり寄った。
 「瑛貴くん?…どうしたの…?」

 「………反省中だ…」
 何を?
 きょとんとして瑛貴くんの顔を覗き込むと指の隙間から日和の顔見てそして大きく盛大な溜息を吐き出した。
 「…まさか…抑えが効かなくなるとは思わなかった……危なかった…」
 ん?……もしかしてえっちの事?

 「ぼ、僕は…いいもん…」
 「よくない。…よくない………はぁ………ひよを責任もって預かりますって…食っちゃだめだろ」
 食っちゃ……って…いいのに…。
 「お母さんからの電話……。……勘でも働いたかな…?」
 「ま、まさかっ!」
 「ひよの危機察知したんじゃ…」
 「危機じゃないもん!」

 キスだってなんだって日和にしてみたら嬉しい事だ。…えっちだって…日和をちゃんと瑛貴くんが子供じゃなくてその対象として見てくれてるって事で安心出来る。
 だって!どうしたって子供の頃の事が過ぎるのは当たり前の事で、もし子供と思ってたらそんな風にはきっとならないはず。
 だから…嬉しいのに…。

 なんかそういう風に言われると…瑛貴くんが悪い事しているみたいじゃないか。…そうじゃないのに…。
 日和だってキスしたいって思うのに…。
 そう思って日和からキスしたのに…そんな風に思ってもダメなの?
 …瑛貴くんがそう思っているわけじゃないのは分かっているけど、でもなんとなく日和にはまだ早いとか似合わないとか言われているみたいに感じてしまう。…それに大人な瑛貴くんと対等ではなくまだ、子供だと…。

 勿論、対等でなんかないのも、まだ子供なのも分かっている。
 分かっているけど…。
 瑛貴くんの目にはもうさっきまでの熱の籠もった視線がなくなっている。
 射るような…日和をぐちゃぐちゃにしてしまいそうな熱はもう消え去っていた。
 「…まだ早い」
 瑛貴くんが小さく呟いて日和の頭をくしゃりと撫でる。

 それが悲しい。
 これは幼馴染の近所の子にするなでなでだ。
 瑛貴くんと同じ大人だったらよかったのに!だったら瑛貴くんは日和をぐちゃぐちゃに蕩けさせてくれるのだろうか?
 最後までがイマイチ分かっていないけど、キスだってなんだって瑛貴くんにされるのは気持ちがよくてもっとずっとしていたいのに。
 それ以上に瑛貴くんを感じられるならいいのに…。

 「ひよ?」
 ……そもそもこんな事思ってるのだって日和には似合わないんだ。
 瑛貴くんがまだ早いと言うのだって…頭では分かる。
 自分自身でだってそう思う。
 でも頭じゃなくて…心が瑛貴くんを欲しいと訴えている。
 確証が欲しいんだ。

 ……日和の事を特別だと、好きだと言ってくれる確証が。
 瑛貴くんに釣り合うはずなんかない。分かってる。子供だって分かってる。瑛貴くんがそう思ってるのも分かってる。
 それでも日和がいいと言ってくれている確証が…。
 どうしても瑛貴くんがいなくなった事が不安を煽っているのかもしれない。もういなくならないと瑛貴くんは言ってくれるけど…。それでもどこかに不安が残っているんだ…きっと…。

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