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約束。 61

 瑛貴くんに送り出されてバス停に。路線が一緒なので定期がそのまま使えて、しかもどうやら二つ前のバス停から戸田が乗ってくるらしい。
 バスのドアが開くと戸田がいた。
 時間はいつもよりもちょっとずらして一本後。
 それでも始業時間ギリちょっと前に学校には着く。元々日和が乗っていたバスだ。戸田と一緒なのが分かってからは一本前の乗ってたけど。

 「おっす」
 「おはよ…なんか変な感じだね」
 「だな」
 いつもは先に日和の方が乗って戸田を待っているのにそれが反対なのがちょっと違和感。
 戸田がじいっとバスに乗り込んだ日和を見ていた。
 「何?」
 何を見ているのかな?と首を傾げて聞いてみた。

 「………まだ、なんだ?」
 「まだ?何…が…」
 何が?と一瞬思ったけど、すぐに戸田が何を言いたいのかが分かって日和はかぁっと顔を赤くした。
 「……後で話!聞いて!…聞きたい事もある!」
 「いいけど~」
 にやにやと戸田が笑っているのが恥ずかしくて肘で戸田のわき腹を突く。
 

 「で?」
 お昼休みに戸田と人気のないとこでゆっくり話せそうなとこ、と屋上に出る階段の上の方にいた。
 屋上へは鍵がかかって出られないので、誰もこんなとこまで来ない。階段に二人で並んで腰かけていた。
 「……………瑛貴くん…したくない…のかも」
 「なにを?セックス?」
 そんなモロに言わないで!と日和は顔が熱くなって顔を隠しつつも頷いた。

 「………ってお前よく分かってないって言ってただろ」
 「うん…分かってない。でも瑛貴くんなら別に…いいんだけど…なんでも…」
 「あっそ。…で?なんでしたくないって思うって?…んなわけないと思うけど…」
 「……土曜日に…一回そんな感じの流れになったんだけど…。僕のお母さんから電話かかってきて…」
 「寸断?間わりぃな…しかも高宮のお母さんから電話?」
 戸田がケタケタと笑い出す。

 「アイツにはざまぁみろ~だ!イケナイ事しようとするからさ!はっ!そりゃ萎えるわ」
 「イケナイ事じゃないもん」
 「高宮にしたらな。でも一般的に考えたらイケナイ事だろ」
 「………そうかも、だけど」
 日和はむぅっと口を尖らせた。
 「そこからもう一切そういうのなし」

 そう。一緒にいても、抱っこもしてくれるけどそれは子供の時と何にも変わらないようなものばかりだ。
 戸田はくっくっとずっと笑っている。
 「ははーん…まぁ常識ある大人だったらそうなるんじゃね?」
 「………なんでそんなに楽しそうなんだよ」
 「楽しいから~!……ふぅん…そっか~…」
 まるで鼻歌でも歌いそうな感じの戸田を睨んでしまう。

 「……僕が子供っぽいのは分かってるけど…そういう気になれないだろうとは思うけど…」
 「でも一回はスイッチ入ったんだろ?」
 …でも夜だってまるきり子供扱いだった。
 「………高宮から誘えば?」
 戸田が苦笑を漏らす。

 「さ、さ、誘う…って…どんな…ふうに…」
 「え~?風呂あがりに裸でうろつくとか?」
 「………僕の裸見たって…どうも思わないと思うけど…」
 「んな事ねぇだろ。そんで抱きついてキスでもしたら?…はぁ…俺も自虐的だなぁ…でもそうなったら諦めもつきそうだし…」
 「何が?」
 「何でもねぇよ?…しっかし高宮の今の悩みってそれだけぇ?ストーカー野朗はどうでもいいんだ?」

 「………だって…瑛貴くんの傍いると…安心するんだもん……」
 「ですよねぇ」
 はぁ~と戸田が溜息を吐き出してるけど日和はそれよりも誘う、って言葉がくるくるとまわる。
 「高宮く~ん?」
 「え?あ、…」
 「誘うの考えてた?」
 ぷぷぷと戸田に笑われてかっと顔が熱くなる。

 「そんなに…アイツとしたい?」
 戸田が笑いを引っ込めたと思ったら真剣な眼差しで日和を凝視して真面目な口調でそう聞いて来た。茶化されるんじゃなくて真面目だったのに日和も照れもせずに頷いた。
 「……安心したいんだと思う」
 「安心?」
 「前に言ったでしょ?離れてた時期があったって。それが怖いんだ…また…そうなるんじゃないかって…もうしないって言ってくれるけど…」

 「信じきれない?」
 「そうとも違う。信じられないのとも違うんだ。…けど…」
 「証がほしい?…でもそれ言ったらえっちした後だって同じじゃねぇ?」
 「………そうかもしれない」
 「……アイツはアイツで高宮の事考えてる。大人だし高宮の事を大事にしてるのも分かる。…たまに大人げねぇけど。お前だって一応男なんだから分かるでしょ?出したくなったら我慢出来なくなるの。それ堪えてんだから。じっさいヤっちまったほう簡単だろ?それしないで我慢してるアイツの事も考えたら…ってなんで俺がアイツの味方しなきゃねぇんだよ」

 …戸田の言っている事が分かる。日和が焦っていたのも。
 「………うん…ありがとう」
 「どういたしまして」
 戸田がくすっと笑って日和の頭をくしゃっと撫でた。 
 「可愛いね…頑張って僕ちゃん」
 「な、なに!それ!自分は大人だからって!」
 こうやって最後を茶化してくれてわざと戸田はふざけてるようにしてくれるんだ。

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