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約束。 63

 休み時間も日和はつい校門の方を何度も気にして見ていた。さすがに大村の学校だって授業中だろうからまさか午前中から来るはずない。…そう分かっていてもつい気にしてしまう。来るとしたら多分午後で学校が終わる頃…。
 でも大村が授業終わってから来るんだったらその移動中にもう日和だって学校は出ていそうだと思う。だいたいどこの学校だって授業の終わる時間は大差ないだろうから。

 そう思えばこんなに身構える必要もないか、と神経質になっていた自分がおかしくなる。
 瑛貴くんがいて安心していたはずなのに…やっぱりまだどこかに嫌な気持ちは残っているんだ。

 女みてぇ~、キモイ、うざい、男女、おかま、…あとなんだっけ…。今思えば小学校並みの言葉だけど、毎日のようにわざと日和の目の前に立って言われればどうしたって顔は背けたくなる。日和は男らしいとはいえないけれど、別に女っぽいと思った事もないし、なよなよしているつもりも日和はない。
 現に今だってどこも変わりはないけど誰にもそんな事は言われない。
 …それとも言わないだけでそう思われてる…?

 「ねぇ…」
 気になって仕方なくなって休み時間に小さい声で戸田に話しかけた。戸田だったらバカにする事ないはず。
 「僕って女っぽい?」
 「は?いや?全然。ヤローにしちゃ可愛いけど。だからって女みたいって事はねぇだろ。なんだそれ?」
 きょとんと目を丸めてる戸田にほっとして日和は笑った。
 「それならいいんだ…」

 戸田が眉間に皺を寄せた。…分かったかな?戸田って何気に敏いから…でもそれ以上無理に聞き出す事もない。
 「考えすぎ~」
 「…うん」
 ほっとしてそのまま授業も全部終えた。
 「さっさと帰るぞ」
 「…うん」
 戸田はすっかり日和の保護者みたいだ。瑛貴くんも保護者で戸田も。

 朝のホームルーム終わってすぐに瑛貴くんが戸田を呼んで廊下でちょっと話してたのはきっと日和の事を頼んでたんだ。
 申し訳ないな、と思うけれど、戸田は一言も何も言わない。
 「僕…戸田に何返せばいいかなぁ…?」
 「ああん?」
 「だって戸田には迷惑とか面倒とかかけっぱなしだ…」
 「ばぁか…」
 戸田がそっと日和の傷痕に触れた。

 「お前に怪我させちまったの俺のせいだし」
 「違うよ!戸田の所為なんかじゃないよ!これは僕が余計な事したから!それに元々僕がいたから大村が寄ってきたんだもん!」
 「それでも…俺のせいだ…」
 「戸田!そういう事言うなら友達やめる!」
 「え~…それはやだなぁ~」

 やめる、なんて日和が言う事じゃないのに戸田はそんな事を言う。
 「…やなの?」
 「やだなぁ~。高宮の初めてのトモダチでしょ?俺も一緒いてこんな面白いダチいねぇし」
 「……面白い?」
 「おもしれぇよ?………からかうと」
 「もう!」

 授業が終わって喧騒とした廊下をふざけながら歩いているうちに気が紛れた。これもわざとなのかな…?
 「戸田って僕と同じ年じゃないみたい」
 「うん。実は一コ上なんだ」
 「え…!?そ、そうなの…?」
 「んなわけないじゃん!」
 「ふ、ふ、ふざけすぎ~!!!」
 もう!

 「あ、でも、高宮3月生まれって言ったろ?俺4月生まれだからやっぱ1コ上と変わんなくね?」
 「……そうだね。瑛貴くんも4月生まれ…。4月生まれの人はみんな背高いのかな」
 「んなわけねぇだろうが!」
 バカな事を言いながら昇降口を出て校門を出た。
 「あ……」
 ……いた!

 「……高宮」 
 大村が校門の脇に立っていたのが分かって日和は固まった。
 「高宮、こっち」
 戸田が日和を隠すようにして日和の前に立つ。
 「何の用事だ?ストーカー」
 「戸田…」
 戸田が怖い顔をしながら声を低くして大村に向かって言った。
 そんな喧嘩腰で…。どうしよう…また殴り合いとかになったら…。

 戸田の影で日和は震えた。
 「おい!そこのヤツ!職員室行って月村呼んで来い!早く!!」
 戸田が歩いているウチの生徒に声をかけると、戸田の様子に尋常じゃないと思ったのか、日和の傷の噂は聞いていたのか知らないけれどすぐに何人かが校門から学校に走って戻って行った。

 「ストーカー…そんなつもりじゃ…」
 「こいつんちにまで押しかけてるんじゃ立派なストーカーだろうが!」
 喧嘩口調な戸田に対し大村は今日は静かだ。
 「…高宮と話が…したかったんだ」
 大きな体を縮めるようにして顔を俯け大村が小さく呟いた。

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