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約束。 68

 「おかず、けっこうあるな…じゃ米炊くだけでいいか。お母さんに悪いな…」
 「ううん!僕泊めてもらうほうが瑛貴くんにとっては迷惑だもん」
 「迷惑じゃないって言ってるだろ」
 こつっと頭を小突かれる。
 そんなじゃれあいも楽しくて幸せだ。
 瑛貴くんの背中にへばりついて…。日和が余計な事考えてるのが見えないように。分かられないように。無邪気に。子供っぽく。

 …そうすれば瑛貴くんも安心する?
 でもそれじゃ足りないんだ。大人のキスがしたい。ぞくぞくする事をして欲しい。
 …そんな事を日和が思ってるなんてきっと瑛貴くんは思ってもないだろう。
 自分の気持ちを隠したままご飯も済ませて。日和が食器を片付けるからお風呂先行ってきてと瑛貴くんを風呂場に押す。

 ドキドキが大きくなってくる。
 誘うって…裸で…とか…。
 「あっちぃ~…」
 瑛貴くんが半裸でお風呂を上がってくる。
 自分とは違う男の体だ…。
 「ひよも行ってきたら?」
 「…うん。じゃ、お借りします…」

 自分の置いていった着替えを手にそそくさとお風呂場に行った。
 ぱっと着ていたものを脱いでシャワーを浴びる。
 鏡に映った自分の体を見ると、さっき見た瑛貴くんの体を思い出し比べればがっくりしてしまう。
 まぁ、でも隆々としてたら瑛貴くんは抱っこもしてくれないかもしれないからいいけど、でもガキっぽい身体だ。こんなんで誘惑って…とてもじゃないけど笑われそうだ…。
 でも…。

 いいけど、男同士ってどうするの?戸田は瑛貴くんは分かるだろうからって言ってたけど出しっこすんのかな?どうなんだろ…。
 頭を捻ってしまう。
 中学校の時の友達は学校の中だけの友達だった。休みの日に会ったりなんてこともなかった。家に遊びに行ったり来たりもなかった。そんな精神的に余裕もなかったんだろうけど。
 とにかく一日が早く終わって欲しいとそれだけを思っていた。

 瑛貴くんもいなくなって、誰も信じられないような感じで…自分から壁を作っていたのかもしれない。
 でも今は違うと思う。それも瑛貴くんと戸田のおかげで自分から変わったわけじゃなかったけど、でもいくらか変わっているだろうか?
 学校が楽しいと思えるようになんて自分でも思ってなかった。 

 大村が来た次の日の噂は凄い事になっていて驚いたけど。
 日和と戸田と大村の三角関係だ、とか。あり得ないようなものばっかりで笑ってしまった。クラスの何人かに本当の事を告げた後はそれがちゃんと回ったのか、婉曲してまわったのか日和には分からないけれど沈静化したのでよかったけど。

 プラス瑛貴くんの株が上昇。生徒の事ちゃんと見て守ってくれる先生という事で。
 日和だけが特別なんて噂は一つも出なかった…。
 いいんだろうけど、なんとなく複雑な気もする。そりゃ瑛貴くんと日和とじゃつりあわないのは分かってるけど!
 ぐちゃぐちゃと色々考えているうちにシャワーが長くなってしまったので慌ててお風呂場を出た。
 「あつ…」
 タオルで身体を拭いても汗が出てくる。
 あちぃ、って言いながら出てきた瑛貴くんがよく分かる。

 「あっつ~い!」
 日和も上半身裸で瑛貴くんのいるリビングに向かった。
 「……ひよ、ちゃんと着て」
 「だって!暑いもん」
 それよりも…。
 瑛貴くんは暑さが治まったのかもうTシャツを着ていた。

 日和はそのままで瑛貴くんに近づき、そしてその瑛貴くんの膝の上にそっと乗る。
 自分からこんな事…。
 顔が熱い。心臓がドキドキして大変な事になっている。
 「ひよ!?」
 「ダメ…?」
 心臓がバクバクして口から飛び出しそうだ。
 瑛貴くんの肩に手をかけ、顔は目の前。でもきっと日和の顔は真っ赤になっているだろうしきっと情けない顔になっているはず。

 「…髪もちゃんと拭いてない」
 「すぐ乾くよ?暑いもん…」
 瑛貴くんの手が少し湿ってる日和の髪を梳いた。
 それが気持ちよくて…。キスしたい気持ちが増してくる。
 「ダメだ。降りなさい」
 そう言いながらも瑛貴くんの手が日和の頭を撫でている。

 「や…。だって…」
 触りたい…。
 そう思ったら瑛貴くんがふっと日和から目を背け、そして触れていた日和の頭からも手を離した。
 どこも瑛貴くんは自分から日和に触れてくれていない。
 あ……やっぱり…嫌だった…んだ…?
 子供の癖にこんな事…似合わないの自分でもよく分かってるのに…こんな事。
 触ってもくれない位…だなんて…。

 「ご、め…な…さい」
 かっと恥ずかしくなって顔をさらに赤くして日和は瑛貴くんの膝からおずおずと降りた。
 して欲しいしか自分は考えてなくて…こんな浅ましい自分なんか瑛貴くんは嫌に決まってるだろ。
 「ひよ?」
 「か、帰る、ねっ!」
 「何を?」
 バカみたい。恥ずかしい。
 慌ててTシャツを着て持ってきた自分のバッグも掴んだ。
 「ひよ!」

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