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約束。 78

 中学校の頃のいじめもきっとひよのトラウマになっていたのだろう、と思う。
 その記憶がひよの中から消えたりはしないだろうが大村というヤツとの事が一段落ついてひよの中で傷がほんの少し軽くなっただろうと思う。

 そして自分との事も。
 ずっとひよは不安そうだった。
 いくら言ってもひよはすぐに瑛貴の顔色を見て窺っていたのにそれがなくなった。
 それを思えば抱いてよかったのだと思う。
 まぁ、きっとひよに誘惑されなくても我慢は結構かなり切羽詰っていたが…。

 しかし…高校生に、ってな…。
 しかもそれでなくともひよは誕生日遅いのに…。
 自分が勿論ひよに関してはすべての責任を負うつもりでいるが。
 ひよは大人びた。
 きっと色々な事が重なってひよを一つ大人にしたのだと思う。

 普通にいつも通りクラスの席に座っているひよに目をはっと惹かれる事がある。
 もしかしたらそんなのは自分だけかもしれないが…いや、元々可愛かったのに艶が増したと思う。…やっぱりそんな事思うのは自分だけか?
 …困った子だ。

 近くにいても遠くにいてもやっぱり考えるのはひよの事なんだからどうしようもない。
 大人になるのがちょっと寂しい気がして、そして嬉しいとも思う。 
 ……光源氏の気持ちかよ、っていつも自分に突っ込むとこだ。
 もうすぐ夏休みに入る。ちょっと遠出してどこか遊びに連れて行ってやろう。
 とにかくひよが喜ぶ事をしてやりたい。
 

 「月村先生、ちょっと」
 職員室で書き物をしていたら本間先生に声をかけられた。
 意味ありげな笑みを浮かべていたのに怪訝に思いながらも椅子から立ち上がった。
 しつこく言い寄られて辟易していたが、同じ英語の教科でそうそう無碍にもできない。

 「見ましたよ?」
 仕方なくついていくと誰もいない英語準備室でそう言われた。
 …もしかしてひよの事か?
 「何をです?」
 「特定の生徒と個人的に会うってどうなんですか?しかも可愛い男の子…。月村先生…そういうご趣味だったの?」
 いつどこで見られたのか?
 一応は気をつけていたからここいらの近辺ではないはず。

 「そういうご趣味ね…そういうご趣味じゃなくともあなたとは一切関わりたいとは思ってもませんけど?」
 きっ、と本間先生に睨まれて肩を竦める。
 「別に隠すつもりもないですが、あの子は俺の実家の隣の家の子でずっと小さい頃から面倒見てきたので。ただ、あなたみたいに言われるのが億劫だったから言ってなかっただけですけど?用事はそれだけ?…くだらない」

 まさか早々に誰かに見られるなんて…災難だ。
 本間先生が瑛貴の行動や何かを探るように見るようになった。
 これは少しひよを遠ざけた方がいいか?
 ある事ない事吹聴されても困る。
 どこで見られたのか分からないが先週のひよがウチにいた時にはここまで執拗な視線は感じなかったからまぁウチにいたのはバレてないのか?

 いたのを分かられても痛くも痒くもないが…。
 ただ、今の本間先生の視線がちょっと気になる。
 まるで証拠を見つけてやると言わんばかりの視線だ。今週は出かけてないのにどこで見られたのか?そして何故そんなに執拗な感じなのか。

 はぁ、と瑛貴は溜息を吐き出した。
 元々何かと誘うように声はかけられていたがそんなのに惹かれるはずもない。身体だけなら確かに魅力的かもしれんが…。うっかり誘いにのったら食い尽くされそうな肉食の目にははっきり言って惹かれるはずなどない。
 アレに比べてひよの誘いがなんて可愛いのか…………とか、つい思ってしまって瑛貴は頭を抱えた。
 …ひよにも言っておいた方がいいか?
 ひよはバカじゃないから大丈夫だろうけど、ただ注意はしておいたほういいと言っておくだけでも。

 ずっと職員室でも本間先生の視線が突き刺さっているのにイライラが増してくる。
 なぜ本間先生の所為でひよとの事を邪魔されなきゃないのか。執拗な視線がずっと追いかけてくるのに嫌になってくる。
 はぁ、とつい溜息が多くなってしまう。このまま後ろをついてきそうな勢いだ。

 「熱烈ですね?羨ましい」
 年のいった先生にこそりと耳打ちされたのに瑛貴はまた溜息を吐き出した。
 「迷惑なだけですよ…」
 学校内で他人にも分かられる位の視線って常識ハズレだろうが。
 それを羨ましいという男性教師にもつい当たりたくなってくる。
 羨ましいなら是非とも変わって欲しい位だ。

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