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約束。 80

 朝のホームルームで一瞬じとりと瑛貴くんに睨まれて日和は肩を竦めた。
 だってね。健全な男の子ですから。好きなのは瑛貴くんだけだけど。
 つんと戸田に後ろから突かれた。
 「どうした?今日、月村機嫌悪くね?」
 「うん、ちょっと」

 思わずぷっと日和が笑ってしまうとそこ、うるさい!と早速瑛貴くんに注意される。
 おとなげなーい!とか思っちゃうけど、瑛貴くんが可愛い。
 日和よりも実質10歳も上なのに可愛いって…。
 そんな風に思えるなんて自分でも驚きだ。


 そしてお昼休みに瑛貴くんからメールが入ってきた。
 今日ひよんちまで行く!…と。
 ……そんなに気にしちゃったのかな?
 でも会えるなら嬉しい。…キスできるよね?
 携帯を見て思わず笑ってしまう。
 「そういや昨日の、月村は何だって?」
 大体いつでも日和は戸田といるのが普通であと何人か入れ違いで話したりとか。こんな普通の学校生活が毎日楽しい。

 「なんか付き纏われてるって」
 「そりゃ羨ましい話だな」
 「なんか瑛貴くんは嫌そうだったけど」
 「そりゃいいってお前にはいわねぇだろ?」
 「そうだろうけど…なんかすごい嫌そうだった」
 「……………やっぱショタ?」
 がつ!っと戸田の頭を叩いてやる。

 「ひでー!高宮が暴力!」
 「当然でしょ」
 「で?朝の不機嫌は?」
 「僕が触ってみたいかな…って言ったから」
 戸田が途端に爆笑する。
 「高宮もオトコノコなのね~~~!」
 「どういう意味?」

 「いや~…なんか全然変わったな。高宮。いいよ!」
 「……そう?」
 「ああ…学校始まった頃なんかおどおどした感じだったのに…。人の顔色見て、とか…そんな感じ」
 「うん……。そうだと思う。…でも信じられる友達が出来て、中学校の頃の事も解決…というのも変だけど、まぁ何となく気持ちに踏ん切りついて、ずっと寂しかったのも…そうじゃなくなって…だから…かな?」

 「…よかったじゃん。お友達は勿論俺なんだろ?」
 「勿論…。戸田以上に僕の事分かってくれてる友達なんてもうきっと出来ない」
 「…………ほんっとお前って実は天然タラシじゃね?」
 「は?」
 「そんな風に言われちゃったらそりゃもうお前の為になんでもしてやりたくなっちゃうもんよ」
 「…そう?そんなつもりじゃないけど…。いっつも貰ってばっかりで戸田に少しでも僕が出来る事で何かしたいな、って思ってるよ?」

 「いらねぇよ。怪我もしない、元気で笑ってりゃいいさ」
 「……………それ友達の台詞とちがくない?」
 「保護者みたいなもんだよな、そうだなぁ~、あとはもうちょっと背伸ばそうか!」
 「………伸びるものなら伸ばしたいけど!」
 「お母さんも小さくて可愛いもんなぁ」
 むっと日和が口を尖らせると戸田が笑っている。

 「何?高宮、背高くなりたいの?」
 他のヤツも入ってくる。
 「当たり前でしょ!」
 「え~!高宮はそのままでいいよ~!可愛くていいのに!」
 「よくない!」

 女子にまで言われてガックリくる。
 女子の三分の一は日和よりも背が高いんだ。
 やっぱりオトコノコですから、そこはちょっとは思ってしまう。
 戸田や瑛貴くんまで、なんて贅沢な事は思わないけど!それにそんなに大きくなっちゃったら瑛貴くんに可愛いって言われなくなるのもやだし。
 …ちょっと複雑ではあるけど。

 「あと五センチ位は欲しい」
 ぎゃはは!と皆に笑われた。
 「なんてささやかな願い!」
 「高宮が五センチ高くなったって170もいかないだろうしあんま変わんねぇだろ!」
 「変わるよ!」
 こんな風に笑っていられるのが嬉しい。

 どうしよう…本当にこのまま、今のままでいられればいいのに。
 早く瑛貴くんに釣り合う大人になりたいとも思う。
 でも今のこういう友達との何気ない時間も大切だと思うんだ。
 そんな風に思えるようなった自分に、そして変えてくれた戸田に、友達に、親に、そして瑛貴くんに感謝したい…。
 少し目が潤んでしまって目尻を拭った。

 戸田が気付いたけど笑っている。そしてよかったな、と目が言ってくれたのに頷いた。
 中学校からの日和の事情も戸田は分かっているから。
 日和はこくんと頷いた。
 「ほんと!高宮かわいー!」
 皆に頭をぐちゃぐちゃにされるのにやめて!と騒ぎながら笑った。

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