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熱吐息 dolce~やさしく~5

【 宗視点 】



 瑞希がおかしい。
 どこか宗を伺うようにばかり見る。
 金の入った袋はずっと仕舞いもせず出しっぱなし。
 触ろうともしないので宗が勝手に引き出しに片付けた。
 バイトの時は朝送っていって帰り迎えに行って。
 言葉の数は減って、表情は儚げで、顔を俯ける事が多くなった。
 バイトの休み前に抱いてから、身体は平気みたいでもう毎日のように抱いていた。
 いい声を上げて抱かれているのに名前も呼んではくれなくて、名前を呼べと言わない限り瑞希は宗を呼ばない。
 抱きついてくるのに、どこか従順すぎて、なんでも宗の言うとおりにしかしない。
 嫌、なようではない。すぐに瑞希は反応するのでそれは分かる。
 でも何かが違う。
 笑った顔もどこかぎこちなくなっていて恐がっている風だ。
 何も恐がるような事はしていないはずなのに。
 丁寧にしているつもりだったがそうではなかったのだろうか?
 あまりにも毎日立て続けで嫌になっているのか?

 1月に入って2日もバイトは休みだったのでまた瑞希を一日拘束した。
 明日には隣が帰って来てしまう。
 そうしたら瑞希は声が漏れるので夜抱かれるのは嫌がるだろう。
 さっさとマンションを決めて一緒に住まえるようにしなくては。
 瑞希が嫌だと答える事など考えてもなかった。
 瑞希の目は宗を見ている。
 バイトに迎えに行った時はいつも鮮やかに笑った。
 そしてどこかほっとしたような様子を見せる。
 不安…?
 何が?
 しかし宗の目下の問題はもうすぐ学校が始まるわけで。
 まだ高校生だと話さなければならない事だ。
 瑞希から離れるつもりはない。
 …つもりはないけれど、高校生だといって瑞希は拒否しないだろうか?
 金は払っている。
 瑞希は宗のものだ。
 何も瑞希が不安に思う事はないのに。
 しかし相手が高校生で瑞希が素直に全部を委ねてくるだろうか?
 そこに不安がある。
 
 
 隣が帰って来てしまった事とどうしても自分がまだ高校生でという事が言えずにいる事。瑞希の表情が翳っているのに宗は自分を抑えた。
 隣もいなくて歯止めもなくあまりにも毎日瑞希を抱きすぎだという自覚もあったし、しつこさに嫌われては元も子もない。
 それに瑞希の態度、表情も気になった。
 言葉は拒否も我儘も何一つない。
 抱いてる時も全部宗の言うとおりにしかしなくて。
 何かがちぐはぐだ。
 それでも離せない。
 どうした?と聞いても瑞希は答えず首を横に振るだけで余計宗に焦燥感が浮かぶ。
 キスはしても瑞希を抱くのは抑えた。
 どこから瑞希は変わってしまった?
 何を間違った?
 宗には分からない。
 いつ言おうか。
 学校が始まっても家に戻る気などさらさらなかった。
 瑞希から離れる気などない。
 コンビニのバイトだって本当なら辞めて欲しい位なのだが。
 コンビニの店長にはさらりと話しかけて瑞希に特別な感情を向けてないのは分かっていた事だったので、よしとしたけれど。
 さてどうしたらいいか。
 まずは高校生と告げる事。
 瑞希がなぜそんなに表情が曇ってしまっているかという事。
 そこが問題だ、と宗はバイトに行っていない瑞希のアパートで考える。
 それとマンションだ。
 宗は携帯を手にした。
 「俺だ。マンションいいところあったか?」
 会社を立ち上げる準備は出来ていた。父親のつけた宗のお目付け係りだった坂下は出来る人間だった。
 そこに宗は目を付け年の足らない自分の変わりに表に立たせ、動いていた。
 元々大学卒業したら起業と考えていたがそれも早めよう。
 株やFX、外貨で資金は貯めた。
 言っては何だが二階堂の名前もある。
 嫌いな苗字だが役に立つ事は間違いないわけで、この際嫌だなんて小さい事は言わない。
 利用できるものは利用してやる。
 「ああ、ここからも近いな。…見に行こう。手配してくれ」
 瑞希はもう話さない。
 執着しているかもしれない。
 人とこんな狭い所に一緒に住めるなんて自分でも驚きだった。
 バイトに行っている間も気になって仕方ない。
 そういえば桐生にストーカーかと問われた事があった事を思い出した。
 あの時はただ兄貴の相手かと気になったのと、父親が接触しそうなのについてただけで瑞希に対する様に雁字搦めにしたいなどと思った事はなかったのだが。
 宗は自分でも瑞希に対する独占欲を持て余していた。

 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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