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約束。 88

 「大丈夫か?」
 「…じゃないみたい。動きたくない………それに後ろにまだ瑛貴くんいるみたい…」
 朝というよりはもうお昼と言っていい時間に目を覚ました。瑛貴くんも今日は休み。
 やっぱり一緒にいられるっていい…。
 ぺたんと瑛貴くんにくっ付くと瑛貴くんが抱き返してくれる。

 「……ほんとでかくなったなぁ…」
 しみじみと言われればちょっと複雑だ。
 「…瑛貴くんは小さい方…いいんだよね…」
 「は?いや?大きい方がいいだろ。小さいのにエロい事は出来ない。俺より大きいのは勘弁だが」
 「……そう?」
 「ああ…。というか何バカな心配してるんだ」
 ぴっと軽く額をデコピンされた。

 「そっか…」
 「日和がひよだったから可愛かっただけだ」
 「なんか鳥の雛みたいな言い方」
 「似たようなもんだろう?」
 「じゃ刷り込み?」
 「かもな」
 くっくっと瑛貴くんが笑ってる。その瑛貴くんの身体の上にのそりとだるい身体を移動させて乗っかった。
 
 「…ホントくっ付いてるの好きだな」
 「うん」
 安心する。
 こてんと瑛貴くんの胸に頬を押し付ければ瑛貴くんの心臓の鼓動が聞こえる。
 こんな朝をこれからはずっと迎えられるんだろうか?
 幸せだ…と笑みが零れてしまう。
 「あ、そういえば戸田が瑛貴くんに自分の携帯の番号教えておいてって言ってたんだけど?瑛貴くんが必要だろって。いる?」

 「いる!」
 「………どうして?」
 速攻で瑛貴くんが答えたのに日和は頭を捻った。
 「そりゃあお前当然だろう。今までは俺の目の届く範囲にいたんだ。学校でも日和の事だって見ていられたけど、大学行ったら全然わかんねぇだろうが。戸田と同じとこでほんとよかった」
 「僕の事聞くため?」
 「そう」

 「ふぅん…」
 「お前を信じてないんじゃないぞ?周りがお前にどう反応するかとか!」
 「…別にいいけど…」
 そんなに心配なんだ?
 思わず笑ってしまう。こんなに日和の中は瑛貴くんでいっぱいなのに。
 「変なの」
 はぁ…と瑛貴くんが溜息を零す。
 「大丈夫かね…ほんと…」
 
 それからほとんど家にも帰らないで瑛貴くんの部屋に同棲状態。
 大学が始まってもほとんど帰らず、高校の時瑛貴くんと会えないで時間を持て余していた時に母親に料理を教えてもらったので、瑛貴くんが帰ってくるのをご飯の用意をして待っている。

 「……お前さ…親に何か言われねぇの?」
 学校から帰ってきた瑛貴くんが着替えを終えテーブルに並んだご飯を前に、言いづらそうにそんな事を言ってきた。今更…と日和は思わないでもなかったのだけど…。
 「え?何を?」
 「だって…ほら、俺んとこばっかいるし」
 「うん。言われない。……ああ、前に高校の頃かな…結婚するって言ってたものねぇ…ってなんかしみじみ言われた事あったから…もしかして分かってるかも」
 「は!?」
 瑛貴くんが茶碗を持ったまま固まって、そして頭を傾げた。

 「……………そういや…俺も…見合い見合い言われなく…」
 「お見合い!?なにそれ!?」
 「いや、結婚なんかする気ねぇって言って全部はねつけてたけど。だから俺は実家戻りたくねぇって言ってたんだ。…そういや…もうずっと言われてなかったな…前はあんなにしつこかったのに…」
 瑛貴くんと顔を合わせる。

 「……日和がずっと結婚結婚言ってたから…?小さい頃だけだったのに…?分かったかぁ?」
 くっくっと瑛貴くんが苦笑している。
 「まさかの…家族公認?…うそだろ」
 「あ…そういえば…おばさんに…ひよちゃん大人になったね。綺麗になったね、って言われた事あったよ?瑛貴と結婚するってずっと言ってたけど、って」
 
 「で?……日和はなんて?」
 「はい。って。瑛貴くん下さいって」
 「はぁ?ひ、日和!!………それ!いつ!?」
 「いつ?……高校……二年位…の時かなぁ…?」
 「ひよ!お前が言ったのか!」

 「ダメだった?だって…瑛貴くんは僕のだもん」
 「だもんじゃないだろ。だもんじゃ!…しかも黙ってるし」
 「……だってお話だってあんまり出来なかったでしょ。ほとんど電話だけで…会ったらすぐキスだったし。…言おうと思ってて忘れてたんだった。今思い出した」

 「今…思い出したって…。……俺やっぱ日和の家にご挨拶行った方いいのか?」
 「何の?」
 「日和を下さいって」
 ぶわっと顔が赤くなってしまう。
 「べ、べ、別に今じゃなくたって…僕、まだ大学…」
 ちゃんと…挨拶にって行ってくれるんだ…。

 「いいよ…挨拶とか…僕…瑛貴くんといられればそれでいい…」
 「俺もそうだけど」
 「じゃそれでいいよ。だってもうずっと僕は変わらないもん」
 「ほんと大人になったな」
 ぷっと笑って瑛貴くんが日和の頭を引き寄せてキスした。
 きっと〝大人になったな〟ってずっと言われ続けるんだろうな、と日和はくすっと笑ってしまった。
  

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