1月に入って2日はバイトがまた休みでその日も宗は瑞希を離さなかった。
買われた…。
それがずっと瑞希の心を苛んでいた。
一緒にいてもずっとそれが瑞希を鎖で繋いでいる。
それでもいい、と思う心と嫌だと思う心。
それがひしめき合っていた。
3日を過ぎたら宗が瑞希を抱くのを止めた。
隣が帰ってきたのもあるだろう。
だけど隣がいなくなった朝も宗はキスはしても抱くのを止めた。
飽きた、のだろうか?
それでも問えない。
袋に入った金は宗が引き出しに片付けた。
目に入らないけれどそこにそれがあるのを思えばずっと瑞希の心に引っかかっている。
いびつだ。
一緒にいるのに宗との関係はもろい崖を歩いているような感覚がする。
一歩先がもう崩れてなくなってしまいそうな…。
宗がバイト先に迎えに来てくれるとひどくほっとする。
自分がいない間に宗がいなくなってしまうのではないかと毎日焦燥感が瑞希を襲っていた。
だから宗の姿を見ると今日もまだいると、いてくれたとひどく安心した。
飽きてない?
でもどうして毎日抱いてたのにやめた?
飽きた?
でも寝るときは相変わらず狭いベッドで宗の腕は瑞希を掴まえている。
そうしなければ落ちてしまうという事もあるけど。
キスもする。
でも抱かないのはやっぱり嫌になったから?
毎日が綱渡りしているような感覚で全然心が休まっていない。
宗の一言一言が怖い。
自分が言葉を話すのも怖い。
何かを言って宗が呆れたら?
嫌になったら?
宗は出かけないで瑞希のアパートにいる。
それが本当かどうかはバイトに出ている瑞希は知らないけれど、それを問う事だって出来ない。
だって聞いて宗がうざい、と思ったら?面倒だと思ったら?
仕事は?
家は?
聞きたい事はあるのに聞けない。
どうして抱いてくれないの?
そんな事言えるはずない。
待っているようで、望んでいるようで。
宗は違うかもしれないのに言えるはずない。
従順に宗のいうとおりにしてたら嫌われないだろうか?
いてくれるだろうか?
「瑞希」
迎えに来てくれた宗はいつも助手席で待っていて、帰りは瑞希が運転して帰る。
もう車に乗っても宗を引っかけてしまった時のような浮かれた気持ちはない。
今は宗が気になって仕方ないから。
その宗がなんとなく困ったようにしながら話しかけてきたのにどきりとした。
もういい、飽きたと言われてしまうのか?
家に帰ると言われてしまうのか?
それでも無言でいなくなられるよりはましなのかもしれない。
「なに?」
「う……と、だな……」
宗が自分の頭をがしがしと搔いている。
何したって瑞希にはかっこよくしか見えなくて、思わず顔を背けた。
宗の顎のラインだって、高い鼻だって、どこもかっこいい。
何を言うつもりなのだろう…?
怖い…。
耳を塞ぎたい。聞きたくない。
瑞希はひたすら前を向いて運転した。
「俺、明日から……学校、あるんだ……けど…」
「……………」
耳がおかしくなったかな?
「………え?俺、耳、……悪くなった…?」
思わず声が怪訝になった。
「悪くない。俺、明日から学校」
宗はぷいっと窓の外に顔を背けた。
「は?」
「学校だけど、瑞希んとこいていい?」
「……………」
宗の顔は外を向いたままで、瑞希の思考は止まった。
学校、って何?
「どこの?」
「……………青桜」
そんな大学ない……。
そして思い当たって瑞希は真っ青になった。
「そ、…宗………?それ、……高校、だけ、ど…?」
「だから!」
宗が声をあげて黙った。
高校…………?
誰が?宗が?
「…高校生………?」
訝しげに瑞希は宗の方に視線を向け聞いた。
「前、向けって!」
慌てて瑞希は前を向いた。
そういや車、運転してたけど?
「く、車…運転っ!」
「いや、免許は夏休みにとった。だから免許ちゃんとあるって。……初心者だけど」
宗が面白くなさそうに言う。
初心者…。
だからあんな慎重な運転…?
いや、でも、…頭の中がぐるぐるしてくる。
「ちょ……待って…」
じゃ、何?瑞希は高校生に買われたのか?
高校生、には見えないだろう。
嘘?
…でもわざわざこんな嘘はつかないだろうし。
「…帰ってから考える…から…ちょっと、待って……頭の中わけわかんない…」
瑞希が言うと宗はがりがりと頭を搔いていた。
テーマ : 自作BL小説
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