「これはどうです?」
「おいしい。酸味もバランスもいい感じだ」
「…よかった」
凪は三塚と凪の家のダイニングにいた。
実は今日持ってきたケーキが試作品で味見をしてもらって感想を聞きたい、と三塚が言い出したのだ。
何の事かと思ったら男はあのケーキ屋のパティシエだったのだ。
箱を開けて出て来たケーキは小さめのが4つ。
「見た目であなたが買うとしたらどれ?」
凪は2コを指差した。
そして別のケーキにもフォークを伸ばす。
おいしい…。
思わず幸せ気分になって口元が笑みを作ったらその凪を見て三塚が口を押さえてくっくっと笑っている。
「あなたがよろしければ試食…これからもしていただけませんか?」
「…………僕でいいなら」
願ったり叶ったりだ!
「でも…いいのか?」
「いいですよ。できるだけ辛辣な批評してください」
「…辛辣な?」
「ええ。見た目も味も」
「………綺麗だし、おいしいけど…?」
「じゃあさっきあなたが買うとしたらって2つ選んだのはどうして?」
「……あんまりムース系は買わないから…ってだけだけど…?でも今食べたらおいしかった…」
「…そう?」
こくりと凪が頷く。
だからこの男は火曜日が休みなのか!だから先週も店が休みなのに持ってこられたのか!
…納得してしまった。
4つのケーキを交代交代に味わいながら凪は顔を綻ばせる。
「…これが店頭に並ぶ?」
「ええ。そのつもりです。じゃあ今4つとも口にしましたけど、ご自分で買いに行かれてもう一回食べてもいいかな?と思ったのは?」
「これ、チョコとカシスのムース?おいしい」
「…ムース系あんまり好まないのに?」
「うん…。これ、おいしい。見た目も可愛い」
「………可愛い……」
またぷっと吹き出される。
「いい!もう言わない!」
「いえ!すみません…言ってください」
26になる男がケーキ食って喜んで可愛い言ってるのがキモイのは百も承知だ!
「可愛いな、と…ケーキなんかより、食べてる凪の方がずっと可愛いですよ」
そう言いながらまだ笑っている。
バカにしてるじゃないか。
「ウチにイートインありますけど、凪は利用しない方いいですね」
「するか。恥かしい」
「いえ、そうじゃなくて…うちの店員達が使い物にならなくなるかも」
「?」
店員さんが?
「大変ですよ…凪がきただけで王子が来たって騒いでますから」
「王子?」
「そう。……あなたがきらきらしいから」
「はい?」
言ってる意味が分からない。
「…なんか見られてるのは知ってたけど…男で…恥かしい…し行くの我慢してるんだけど?」
ぶふっとまた三塚がふき出す。
「ああ、すみません…。好きなのあればいつでも持ってきますよ?」
「……いいのか?」
「勿論。試食もしていただけるなら」
「する。僕の方がお金払ってでもいいからしたい位だ」
三塚がずっと笑っているけど、ケーキが食えるなら笑われる位いくらでもいい。
「…焼き菓子は?食べますか?」
「……好きだけど…」
「今度持ってきますよ。ケーキはすぐ食べないといけないけど焼き菓子なら少しおけますからね」
「……いいよ。ちゃんとお支払いする」
「いいですよ。ああ失敗したのとかでも?ちょっと形崩れたとか。店に出せないのとかたまに出るので。それだったらあなたも気にしないでしょう?」
「………それなら」
コイツすごくいいヤツじゃないか!
「あの…でも本当に…いいのか?」
「ええ。勿論。店員も飽きてるので。試食もそんな幸せそうに食べていただけるなら」
「………おいしいんだ。いっつも…。綺麗だし…店頭で迷うんだけど」
「ありがとうございます。ちなみにこの間あなたが買われて行った二つも俺の作ったやつです」
「そうなんだ?おいしかった…。…って買ったとこ見てたのか?」
「ええ。初めて見たんですけどね。王子が来た!って…それでピアノの先生って知って…またピアノしてみようかと」
くすりと三塚が凪を見て笑みを浮かべたのにどきりとしてしまう。
「…だから甘い匂いがしたんだ」
「え?…ああ俺ですか?…染み付いてるかもしれないですね」
「チョコかクリームか…っていうような甘い匂いだ」
「…あなたみたいな人からならの香りがそうならそれもいいですけど、俺からだとちょっと…って感じですが」
…そんな事はない、と心の中で返事して凪はフォークをケーキに入れた。
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