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トロイメライ 10

 この日は何もなしで三塚はレッスンを終えるとすぐに帰って行った。
 帰って行った後に凪はいそいそとケーキの箱を開けてみる。
 「?」
 なんかいつもよりもキラキラしくないような…?
 おいしそうではあるけれどどうも雰囲気が違う。店頭用じゃないと言っていたが。

 今日も小さめのケーキが4つ入っている。食欲はないけれどケーキなら食べられそうだ。4つを箱から出して皿に置き、眺めてからフォークを刺す。
 仄かな甘みで優しい味。
 「………これ…」
 飲み込んだ後に仄かに鼻腔を擽った匂いは人参か?

 見た目の色もオレンジだ。じゃあこっちの緑は…ほうれん草?赤いのはトマト?黄色はかぼちゃ?トマトはジュレが乗ったムース。かぼちゃはプディング。
 ………もしかしてあまりちゃんと食べていない自分の為にわざわざ…?

 フォークを置いて凪は並んだケーキを前に悩んでしまった。
 店頭用じゃなくてって言ったのはわざわざ凪の為に作った…って事だよな…?そして試食でもなく味の感想を聞くのでもなく帰ったということはちゃんと飯を食ってから食えっていう事か…?
 考えすぎか?…いや先週の言い方と今日の言い方からしたら合ってるはず。…けど、なんで三塚はわざわざこんな事…。

 どうしたらいいんだ?
 わざわざこんな事…。店にもない野菜のケーキなんて…。
 凪はもう一度フォークを持ってケーキをすくい口に運んだ。
 ケーキの濃い味じゃなくて優しい甘さが胃や体に温かく感じる。
 「…おいしい」

 先週そう感想を言った時向かいには三塚が座って笑っていた。……今は一人。
 いや、それが普通なはず。なのにどうして物足りない気がするのだろうか…?
 野菜の甘さなのだろうか?いつもの派手な幸福感はない。けれど温かさが心に沁みこんでくる。食欲のなかった凪がつい口にフォークを運んでしまう。

 どうして…こんな事を三塚はするのだろう…?
 凪は携帯を取り出した。中には三塚の携帯の番号もメールアドレスも入っている。
 …どうしよう?何か言った方がいいのだろうか…?でもなんて?
 素直にありがとう、おいしかった、でいいはず。…なのにメールを入れる事も出来なくて結局凪は携帯をテーブルの上に置いた。

 三塚は一体何を求めているのだろうか…?

 求められても困る。どうしたらいいのかなんて凪には分からない。
 どうにも自分は人付き合いに疎い。
 小学校…いやそれ以前から凪の傍にいたのは母親とピアノしかなかったんだ。友達と遊ぶ約束をしてもそれを守る事は出来なかった。そのため遊ぶ約束もしなくなったし、遊んだこともなかった。
 なにしろ帰ってくればすぐピアノだ。学校行事などで遅くなった時はしぶしぶ母親は認めてくれたけど、遊びに…なんてとんでもない事だった。

 それが影響してか凪にはずっと仲のいい友達なんて出来なかった。学校内ではそれなりに話したりする子もいたけれど、どうしても話題が合う事がなさすぎた。
 テレビもほとんど見ない。ゲームもない。それじゃ話なんて合うはずないだろう。とにかく母のヒステリーが怖かったので凪は大人しく母親の言う事をきいているしかなかった。それが幼少時代だ。

 そして音大に入って家から出た時、母親から解放された、と思ったものだった。自由だと。
 …でも違った。いや、ある意味自由になったか。
 学校での成績で一番を保っていれば母は何も言わなくなった。そして友達も出来た。音大に来ている奴等は皆ピアノ漬けが多くて凪もそれほど違和感がなかった。知らなすぎの事は多かったが、それでも普通の学校よりましだった。
 始めてできた友達と言う存在に浮かれた。そして相手は男だったけど恋人と呼べるような存在まで出来て凪は浮かれた。

 好きだと、必要とされていると勘違いした。今考えれば自分は本当に相手の事を好きだったのだろうか?と疑問は浮かぶ。だが当時は何も見えてなかったのだ。
 友達だと思っていた。恋人だと思っていた。だがそう思っていたのは凪だけだったのだ。いや、それも違う。凪が分かっていなかっただけなんだ。友達や恋人である前にライバルだったのだと。

 友達だと、恋人だと思っていた人達の会話が聞こえてきた。凪が聞いていたとは思わなかったのだろう。凪の不幸を願う声だった。あいつさえいなければ、と…。
 そこから再び凪は殻に籠もることにした。ピアノ相手だったら何も問題は起きない。生徒にレッスンするのも上辺で付き合っていれば何も問題はないんだ。
 それなのに…急につかつかと三塚は凪の中に入ってこようとしている。
 だめだ。入れては。

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