随分顔色が悪かったが…。
元々色が白いのにさらに青白くなっていた。コンサートとかコンクールの前はいつもって言ってたけど、どんだけ繊細なんだろう。
だからああいう繊細な綺麗な音が出せるのだろうか?
ピアノが面白い、と思った。
子供の頃には全然考えてもなくただ弾いてた事に気付けるのが。人の音の違いなんか気にならなかったのに今はそれに気付ける。人間的にいくらか成長したって事だろうか?小さい頃よりかはいくらか情緒を思って弾く事が出来る、と思う。
……色々注意されるけど。
苦笑してしまう。
でもそれが楽しい。毎回新たな発見があるのについ練習にも身が入ってしまうんだ。
…それに…凪が可愛い。
レッスン二回目の時か、顔を近づけてきて匂いを嗅がれた時は驚いたが、なるほどケーキの甘い匂いが身体にしみついていたのだ。
…ケーキ好きらしいから…。
くっと笑ってしまう。
幸せそうに頬張る顔が可愛い…。
……だが今日は青白い顔をしていた。…かなり。
先週ケーキがご飯代わりと言った凪の為に野菜入りのケーキを作ってみたがよかったかもしれない。…ただの気休めではあるだろうが。
コンサートの度にあれなのか…。
ご飯代わりにケーキと言った時も、余計な事だと一蹴された時もどこか自虐的に見えた。
人は生きていれば誰でも大なり小なり何か問題を抱え乗り越えていくものだが…。
コンサートもする位のピアニストなのに凪は一体何を抱えているのだろう?絋士からしてみたらピアニストなんて憧れる職業だが…。
今日のケーキも余計な事だろうと思いつつもケーキ好きな凪は断らないだろうと勝手に作ったものだ。案の定凪は複雑そうにしながらも断らなかった。
…ケーキを餌にしたら凪を釣れないだろうか?
しばらく特定の相手を作っていなかったが、元々モラルには緩い絋士は気にいれば男でもいける。
凪は正直かなり気に入った。
澄まして先生をやっている時は凛として綺麗なのにケーキが大好きな所とか。
作る側としてはおいしそうに食べて幸せそうにしてくれる姿を見られるのは嬉しい事だ。それに凪も…どうやら男は対象に入るらしい。絋士を意識しているのは見て分かった。ただどうもすんなりと靡く雰囲気ではなく、壁を作ろうとしているのも分かる。
さてどうしようか…。遊び、とはいってもピアノを習う以上迂闊に手は出せない。ぎくしゃくしてやめるようになるのは避けたい事だ。
「……なるようになるか…」
とりあえず今すぐどうのという事は考えず状況を楽しもうかと絋士はくすりと笑みを浮べた。
初心な反応も面白い。それにこの声も匂いも凪はどうやら好きらしい。耳元で囁いたら堕ちる…ね。ただ残念ながら2台並んだピアノのレッスンで今日みたいに近づいて来ないとそれを発揮する事ができないのが難点だ。まぁ時間はあるだろう。
ピアノだけでなく凪自身にも興味が湧いている絋士は毎週が楽しくて仕方ない。顔色がよくないのだけは気になる所だが…。
凪がどんな演奏をするのか楽しみでもあるが今からあんな顔色で大丈夫なのだろうか…?
コンサートまではあと10日ほどもあるのに今から物を食べられないんじゃ本当に倒れそうだが…。
ゆっくりと歩いて自宅に戻る。ゆっくりでも凪の家からは10分ほどで自宅だ。店の裏手に自宅がある。
同じ年らしいが凪は…いや、凪のお母さんか?がここに来たのはきっと絋士が高校を出た後だろう。でなければこんな近くにピアノ教室があったら絋士だって気付いているはずだ。
自分がまたピアノに触れるようになるとは…。きっかけはどこに転がっているのか分からないものだ…。人もそうだ。凪がケーキを恥かしそうにそして嬉しそうに買っていった日から絋士の頭の中には凪がいる気がする。ましてあんなに幸せそうに食べている所を見てからは余計に。
………ずっと凪の事ばかり考えているな…。ケーキを作っていてもケーキを見た時の凪の顔が浮かんで笑ってしまいそうになる時がある位だ。
…今日の野菜のケーキはどう思っただろうか?店頭に並ぶような綺麗な豪華さはないが、こんなもの、と凪は思うのだろうか?
だが、あの顔色を見れば絶対豪華さはなくとも凪の為には間違ってはいない。間違っちゃいないが、本人においしいと思ってもらわなければ意味はないのだ。
どう思っただろう?今頃食べてくれているのだろうか?それともおいしくないと捨てられているのだろうか…?
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