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トロイメライ 19

 よかった…。
 本当にただの栄養失調だけでほっとした。
 結果が分かればなんでそんな事で…とも思わなくもないが。
 やはり無理にでも凪の家に通えばよかった!
 気になっていたのだが、凪からの拒絶に二の足を踏んでいたがずかずかと入っていくべきだったと今更ながら後悔する。

 だが…。
 気になっていた。ずっと。
 綺麗な澄ました顔してケーキ食べる時だけ幸せそうな顔するのが可愛いなと思ってはいたが…。
 今日のステージを見てどうしようもない焦燥感が絋士を捕えた。
 開演のブザーがなって姿を見せた凪に心配になった。真っ白い顔色だった。まるで陶器で出来た人形の様に顔色がなかった。大丈夫か?とハラハラしながら見ていた。

 静かにピアノに座ってゆっくりとピアノに手を置きそしえ奏でられる音に引き込まれた。
 毎週レッスンにいって隣にいた存在が遠くに思えた。ピアニストなんだ。ステージには先生じゃなくてピアニストの高比良 凪がいた。こんな何百人を前にして…。自分もかつてコンクールに出た事はあったが、競うのではなく、自分の演奏だけを聴きに来たという状況、心境は絋士には分からない。
 …たしかに精神的にプレッシャーで押しつぶされそうだ、とも思ってしまう。子供の頃はコンクールで緊張なんて事があったが、心情的に大人になった今それをつぶさに感じる事ができた。

 張り詰めた凪の周りの空気に絋士まで緊張してしまった。
 だが、演奏が始まってしまえば凪はそんな今までの物も食べられないといった雰囲気など微塵も見せず音を紡ぎだした。
 正確なタッチ。透き通った音。雑念が混じったような自分の慌しい音とは全然違っていた。

 一部を終わって一安心し、二部では絋士もレッスンで見てもらったノクターンだ。その一音一音が全然違う。なるほど、やはり自分は音大を諦めてよかったのだ、と納得してしまった。
 なぜ同じ楽譜のはずなのにこんなに違うのか…。
 うっとりと曲に聞き惚れる観客を見た。

 クラシックのコンサートだとある程度年齢がいっている人が多いのが常だが、若い女性も多かったのは凪の見てくれに惹かれてなのだろう。
 ステージの凪は確かに人を魅了する位綺麗だった。
 だが段々と凪の顔色が悪くなっていくのが気になって今度は落ち着かなくなっていった。ステージ上はライトのせいで熱い位なのに、凪の顔色がさらに白くなっていったのだ。

 全曲を弾き終えた所でいてもたってもいられずに舞台袖の方に向かった。手には花束。
 ちょっと恥かしい気がしたが…まぁ仕方ない。そんな事よりも凪が…と演奏が終わるのを待てば、演奏を終えた凪が引っ込んだ舞台袖が慌しくなっていた。
 倒れこみそうになっていた凪にかなり動揺した。
 ほらみろ!だから心配したのに!

 さっさと凪を連れ帰るつもりで手を貸せば凪はその絋士の腕を振り切ってアンコールだ、とステージに戻って行った。
 今倒れた人がなにを!…と思ったがその凪の華奢な背中はステージの上でスポットライトを浴び誰も邪魔するのを拒んでいた。

 意識があったのかないのか、朦朧としていたはずだろうに曲は完璧。一音の間違いも不備な演奏もなくアンコールを勤めた。
 だが舞台袖には戻ってこられないかも、とスタッフに緞帳を下げるように頼んでスタッフも異例の事だろうが凪の倒れて虚ろになっている姿を見ていたのですぐに頷かれ、凪が弾き終えたと同時に緞帳が下げられた。その緞帳が下がる間も凪は倒れる事無く立って客席が見えなくなった途端に崩れた。

 慌てて駆け寄った絋士の腕に凪を収めた時にもう自分は高比良 凪に掴まった、と感じた。
 孤高なピアニスト…。
 一人で立とうとするこの人の支えになりたいとおこがましくも腕に凪を抱きながら思ってしまった。

 何を思ってどう考えているのか、絋士の好意も凪は拒絶する。だが嫌われちゃいない。いつも絋士の声と匂いに凪が敏感に反応しているのは分かっていた。
 くすりと絋士は笑みを浮べる。
 男だからという偏見を凪もないのかもしれない。いつも絋士の声と匂いに顔を赤らめているのも可愛いとわざと近づいていた。初めは反応が楽しくてからかいの意味を含んでいたが、自分の凪に対しての武器になるだろう声と匂いにほくそ笑む。

 …捕まえてやる。そしてぐだぐだに甘くして自分に依存するようになればいい。
 人に対しどこか壁を作っている凪だ。バイト、パートさん情報でも王子様はあまり出歩きもしないらしく、まるで珍獣扱いだ。あのケーキを食べる時の幸せそうな顔を知っているのも絋士だけなのかもしれないと思えばどうしても口元が緩んできてしまう。

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