三塚に迷惑をかけてしまった…とは思う。だが放っておいてくれと言いたくもなり、そして好意を向けられるのに戸惑ってしまう。
一体何を思って、考えているのだろうか?
三塚の置いていった豪華な花束は病室には不似合いだ。置くスペースもなくて立てかけられていた花束を見て苦笑が浮かぶ。
コンサートを終え病院に運ばれたのは夜。一晩点滴を受けてコンサートを終えた凪は安心して眠る事が出来て、病院だというのにわりとすっきりとして朝に目覚めた。
倒れさえしなければ入院の必要などなかったのだが…。
特に病状が悪いというわけでもないので暇な時間を点滴を受けながら過ごす。病院食も普通に食べる事が出来た。
コンサートさえ終わってしまえば元に戻るのだから家に帰っていいんだけど、と思いながらも医者に止められてしまっては仕方なくいるしかない。
もう年は26で30に近くなっているからもたなくなったのだろうか?
確かに三塚に言われるとおりにこのまま、これから先も毎回倒れるのだけは勘弁したいとは思うけれど…。
食事も満足にとれていなっかたが、睡眠も同様で、安心した今、お昼を食べたら眠くなってきた。
病室は大人数部屋だったが、カーテンでしっかり仕切っているので他の入院している人とも顔を合わせない。
寝ようか、と思って欠伸を漏らしたらカーテンが揺れた。
「あ…」
「どうです?具合は?」
三塚だった。
「……大丈夫だ」
「朝もお昼も食べましたか?」
「……ああ」
三塚は当然のようにベッド脇の椅子に腰かける。
「それなら大丈夫かな…一応生クリームとかチョコは避けて持って来ましたけど」
どうぞ、と三塚が箱を差し出した。
「……ありがとう…」
食べたいけど…どうしよう?三塚が行ってから…。
「食べないんですか?」
「…食べる」
凪が答えると三塚が箱を開けた。
「プリンにフルーツタルトですけど。…普通のケーキがよかったかな?大分顔色もよさそうですし」
「…うん。あ、いや!でも!おいしいから…どれでも…」
「…チョコケーキと生クリーム系とチーズケーキ系…どれが好きです?」
「…どれも…」
くっくっと三塚が口を押さえて笑うから凪の顔は赤くなっていく。
ついケーキの事になると欲望に負けてしまう。ずっと食べられていなかったから余計に…。三塚が持ってきてくれてたのがムースとか野菜のケーキとかだったから。いや、それだって十分おいしいんだけど!
「明日退院でしょ?」
「…ああ」
「小さいホールケーキ作ってきてあげますよ。お祝いに。」
「…え?」
ホールケーキ!?
「何がいいです?やっぱ生クリーム?」
悩んで悩んでつい!こくりと頷いてしまった。
だって!一人でホールケーキなんて!絶対買いに行けない!
するとまた三塚が肩を揺らして笑っている。
「だって……三塚のとこのケーキ…本当においしい…クリームも甘ったるくないし…生地はふんわりしっとりだし…いくらでも入りそう…」
「…ありがとうございます」
「本当に!あちこち結構食べてるけど!こっち来てからはもう…」
「…ウチだけ?」
こくりと頷いた。
「……他の食べられない…」
すると三塚が笑うのをやめた。
「…ありがとうございます。嬉しいですよ」
三塚が優しい目で凪を見た。その視線に凪の恥ずかしくて赤くなっていた顔がさらに熱くなってくる。
「プリン…食べる」
「どうぞ」
三塚が箱からプリンとスプーンを取り出して凪に手渡してきてそれをそっと口に運んだ。
やっぱり美味しい。
口の中で蕩けるプリンに幸せで顔が弛んでしまう。
「…ホント可愛い…っと、店に戻らないと」
「あ!…もしかして…昼休み?」
「そう。今日はあんまり忙しくもなくて抜け出してきたんで…帰りますけど、凪はおとなしくしてちゃんと食べて下さい。では、明日迎えにきます」
「え?あ、いや…」
タクシーででも帰るからいい、と凪が言う前にさっさと三塚は行ってしまった。
…自分は一体何をしているのだろう…?
そう思いつつも箱の中のタルトに目を惹かれる。綺麗にキラキラとフルーツが輝いていた。
だって…誘惑するんだ。
そう!三塚じゃなくてケーキが!
…ケーキが、だ。
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