三塚の車に案内されて助手席に乗せられた。
「具合はもう全然大丈夫?」
「……ああ…もう平気だ。……その…迷惑をかけた…」
「全然。迷惑だなんて思ってませんよ」
三塚がエンジンをかけ静かに車を出した。車に二人きりというのが凪を緊張させる。心臓の鼓動がやけにうるさく感じてしまうのは気のせいだ。
「今日がちょうど俺の休みの日でよかった」
「…あ…練習してた、か…?レッスン…」
「今日はいいです!何言ってるんですか!入院してた人が」
「…別に…もう平気だからいいけど…」
「今日は休んで下さい。退院祝いですから」
ふと車の後部座席を見ると凪の物以外にも何やら荷物がいっぱいだ。買い物してきたらしい。
「凪は酒飲む?」
「……少しなら。あまり飲む事ないから」
誰かと飲みに出かける事もないし家で一人じゃあまり嗜みもしない。
「まぁ、そういう感じに見えるな。ああ…酒よりもケーキかな?」
かぁ、っと顔が赤くなる。確かに凪は酒よりもケーキの方が好きだけど!
赤らめた凪の顔にちょっと三塚が視線を向けてくすりと笑みを浮かべた。
「別に俺の前で恥ずかしがる必要ないでしょう?そのケーキ作ってる職人なんだから。俺からしたら嬉しい事ですけど?」
「だって…笑うじゃないか」
ふいと窓の方に凪が視線を背けるとまた三塚が笑い出した。
ほら!笑ってるじゃないか!
「違いますよ…。おかしいの笑いじゃなくて凪が可愛いなぁと思っての笑みなんだけど」
おかしくなくて可愛い?
「意味が分からない」
「ん?つまり、バカにしてるんじゃないですって事ですけど?凪が可愛いな、微笑ましいな、もっとケーキ食って笑ってくれないかな、とか…そこ等へんです。思ってるのは」
な、な、…なんだそれ!?
さらにますます凪の顔がかっと熱くなってくる。すると三塚が手を伸ばして凪の頭をよしよしと撫でる。
「……僕は子供か!」
その三塚の手を払うと三塚が苦笑を漏らした。
「子供には思えませんけど。……ホールケーキ作ってきましたよ?凪用に特別に。あ、そういえばタルトは?食べました?どう…」
「おいしかった!フルーツの下のクリームも甘すぎないし、フルーツもごろごろ入って食べ応えあって。上のゼリーの照りもキラキラして、て…」
また三塚にくっくっと笑われて凪は口を噤んだ。
「ケーキの事だとおしゃべりになるんですけどねぇ…気に入っていただけたならよかったですが」
「…うん…おいしかった」
それは本当の事だし、わざわざ三塚が凪の為に持ってきてくれたのだから…。
やっぱりダメだ…。三塚のペースになっている気がする。大体にして凪は小さい頃から友達と呼べる存在も少なかったし人付き合いは苦手なんだ。
「凪は車は?」
「…免許取ってない」
「じゃあ今度ドライブにでも行きますか?」
「…………いや、いい」
「…つれないですね」
そんな事言われても…困るだけだ。断るに決まっている。
三塚は凪が断っても気にしないのか表情を曇らせることもなく空気を気まずくさせるでもなく飄々としたものでちょっとほっとした。いや、別に凪が気にする事はないのに…。
なんか…気にしすぎだろう。
自分が落ち着かなさ過ぎると苛立って窓から外を見る事にした。
三塚はその後何も言ってきはしなかったが、別に気分を害した様子もなく運転も丁寧で凪の身体が揺さぶられる事もない。
滑らかな運転で凪の家へと着いた、凪は免許もないので車もなかったが、駐車場はあったので車を入れる。
「あ、後ろの荷物全部運ぶので」
「……は?」
だってなんかいっぱいあるけど?
凪がきょとんとする。
「凪んちには調理器具とかなさすぎなので。ウチで使わないのとか、足りないものは買ってきもしたけど」
「いや!いらない!どうせしない!」
「凪はしなくていいでしょう。大事なピアニスト様の手だしね」
「………」
じゃあ、誰がって三塚に決まっているのだろう。持ってきた本人だ。
「そういうことされても、されるのも困るから持って帰ってくれ」
「ウチは揃ってるのでいりません」
「そういう問題じゃなくて!」
「いいから。はい、鍵開けて。それに凪はまず着替えが先でしょう!」
あ、そういえば上は着てなくとも燕尾服のスラックスのままだたと凪が寝室に行って着替えをしにいけばその間に三塚は荷物を全部運びきってしまっていた。
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