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熱吐息 dolce~やさしく~8

【 宗視点 】



 キスしてきた瑞希の唇を貪った。
 初めて瑞希からキスしてきたのだ。
 でもどこか普通じゃなくて、泣きながら笑いを浮べてる。
 なんでこうなった?
 高校生だと黙っていたのが悪かったのか?
 それでも瑞希は帰れ、と拒否しなかった。
 このまま瑞希の全部を貪りたい。
 身体を舐めて犯したい。
 自分を瑞希の身体の中に埋めて味わいたい。
 だが様子が普通じゃないのにその欲望を必死に抑えた。
 「宗?」
 宗は瑞希の唇を離した。
 「いい。隣、いるだろう。ただ、こうしてていいか?」
 ぎゅっと身体を抱きしめて聞けば瑞希の眦が仄かに赤くなる。
 嫌ではないのは分かる。
 なのになんでこんなにおかしな事に?
 気にしなくていいのに。
 もっと甘えて欲しいのに。
 瑞希はそれでも一人でがんばろうとするのだ。
 宗が高校生と知ったらますます甘えなんてするはずないだろう。

 今までの瑞希の境遇の事を考えればもう何も気にしないでいいと言ってやりたい。切羽詰ったように、身体を酷使して生き急いているようにバイト、バイト…。生活、学費の事を考えればそうなんだろうが、いいから、と言ってやりたい。
 今まで金の事なんて、生活の事なんて考えた事などなかった。
 何でもかかる。
 水使うのも、ヒーター入れるのに灯油も。食材も電気も。
 全部だ。
 それをバイトだけで?学費も?
 それなのに欲しくて無理してミニを買ったんだろう。
 浮かれるのも分かる。
 よかった。瑞希とぶつかったのがあの日で。
 ぶつかってなければ知らなかった。
 会いもしなかったかもしれない。

 「宗…?なんで…?」
 「何が?」
 瑞希がまた泣きそうな顔になった。
 なぜ泣きそうになる?
 始めの方に見せていた笑顔はもう全然なかった。憂い顔、俯ける、泣きそう、複雑そう、そんな顔ばかりだ。
 唯一笑みを見せるのは迎えに行った時だけ。
 今もまた瑞希は俯いた。
 そうじゃないのに。
 どうしたら笑う?
 宗がぐっと腕に力を入れれば瑞希の手がおずおずと宗の胸のあたりの服を掴んだ。
 「俺にこんな事されて……嫌じゃないのか?」
 宗は瑞希にキスしながら問う。
 高校生に、と思うだろうか?
 瑞希は小さく首を振っていやじゃない、と答えたのにひどくほっとした。
 


 「行ってくる」
 「…………行ってらっしゃい」
 いつもよりもずっと早起きな瑞希に見送られてアパートを出た。
 かなり複雑そうな顔。
 本当に高校生なんだ、といわんばかりの顔に宗もばつが悪い。
 そそくさと歩いて駅に着き、間もなく桐生の姿が見えた。
 そういえば近所だった、とすっかり頭の中では忘れていた事を思い出した。
 桐生がかなり驚いた顔をしていた。
 まぁ、確かにそうだろう。
 そういえば桐生は兄貴に抱かれているわけで、嫌だ、と思う事はないのだろうか?
 瑞希が嫌ではないけれど、どこか変な感じで桐生に聞いてみたいとも思ったがどう聞けばいいのかも分からないし、そもそも瑞希の事を説明しないわけにはいかなくなる。
 さすがに買った、とは言えないだろう。
 …言えない?
 何で?
 宗は買った、とは言ったけど…。
 瑞希にも買ったと言うけれど…。
 だから瑞希も好きにしていい、なんて言うのだろうけれど…。
 そうじゃない。
 瑞希からキスしてきたけれどなんとなく普通ではなかった。
 「なに?」
 じっと桐生を見ていたら訝しげに問われた。
 「いや」
 電車に乗ってあれこれと話をしてみれば天才様の考えはよく分からない。
 兄貴と桐生の繋がりは音楽を知らない宗にだって12月のあのコンサートを見れば分かる事なのに。
 宗よりもきっとずっと上に位置する天才様だから分からないのだろう。
 俗世と離れているような感じの桐生だ。
 綺麗な世界で孤高にいるような。
 瑞希は違う。
 俗世で必死にもがいてる。
 助けてやらないと。
 それは自分でなくてはならはいはずだ。
 いや、誰にも触らせたくない。
 全部自分に依存すればいいのに。

 桐生は悩んでいるらしいがそんな事自分に言う位なら兄貴に言えよな、と思ってしまう。
 こちはこっちで瑞希の事で頭が痛いのに。

 そして桐生と話していて兄貴の気持ちがよくわかってしまったのに思わず心の中で苦笑してしまう。
 宗が瑞希に思うのと同じ事だろう。
 何も心配しないでずっと自分によりかかっていてくれればいいんだ。
 自分だけあてにして、自分だけ見て、そうしてくれてるだけでいいんだ。
 ん?
 兄貴と桐生は恋人同士。
 じゃあ、自分と瑞希は…?
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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