「き、嫌いではない!…けど!別に好きでもない!」
「…そんなつれない事は言わないで」
わわっ!耳元で三塚が唇を凪の耳に触れそうな位の所で囁く。
「やっ、やめろって!」
どん、と三塚の身体を押すと三塚が離れてほっとした。
「…顔真っ赤ですけど?」
そんなの言われなくたって分かっている!
「そ、そんな声で…近くで…声だされたら…当たり前…だっ」
「……当たり前じゃないと思いますけど。まぁ、いいや」
くすくすと満足そうに笑って三塚がキッチンの方に戻ったのでほうっと凪は肩を大きく上下させながら溜息を吐き出した。
絶対…確信犯だ。
なんとなく変な雰囲気になりかけたけど三塚のおかげでどうにか元に戻った感じだ。いや、自分一人だけの家で、しかもキッチンに誰かの気配がするのがそもそもおかしいけど。
「凪」
「な、なんだ?」
まだ顔が熱い気がする。
「レッスン、ずっと入ってる?」
「え?あ、ああ一応」
「じゃあほとんど毎日家にいるって事ですね?」
「そりゃ…まぁ」
なんだろう?
片付けを終えたらしい三塚は今度はガスをつけたり、冷蔵庫を開けたり包丁で何か切ったりを始めた。
三塚が買ってきたのは食材も、でこれから料理するらしい。
……どうして家主に断る事もなく当然の様にはじめているのか、とはいっても凪は最初から料理なんてする気もないのでどうにも強く言えない。何か言ったら三塚に反撃され言いくるめられそうな気がする。
それにあの声で耳元に囁かれてしまったら内容も聞こえないかも…。なんて何考えてるんだ!
「凪?ちょっと個人的な事を聞いても?」
さっきから十分個人的な事聞いてると思うけど。
「誰かと付き合ったりした事あるんですか?」
びくんと凪の身体が揺れた。思い出したくもない事を聞いてくる。
「……一応」
「それ、女?男?」
「…………男」
男となんて言ったら普通は引くはず。
「でももう誰とも付き合う気などないから」
「…誰とも…?…勿体無い」
勿体無い?なんだその返事は?
「よほど相手のセックスが下手だった?」
「そ、そ、そんな理由なんかじゃない!第一してない!」
「え…?あ、そう…?…そっか…凪ヴァージンか」
「そ、そんな言い方は!ち、ちょっと!」
「じゃあ初心でも仕方ないか。…ちょっと待って!凪、付き合ったのその一人だけ?」
「………」
ふいと三塚の方に背を向けた。
「やっば…じゃあ俺、チョー大事にしますから」
「は、はぁっ!?何言ってる!?」
「俺は男でも女でもイけますので」
………軽い奴。
自分は誰かとそうなる事はない、と凪は三塚の事は放っておく事にする。だいたい自分なんかを好きになる人なんているはずなんかないし、自分からもない。
…もう二度と。
いや、あの時だって自分が本当に好きだったのかと問われればどうだろう?と疑問は浮かぶ。キスはした事があったけど好きじゃなかったししたいとも思わなかった…。
「凪?」
「……え?…ああ、何?」
「いえ…なんでもないです。ところで、好き嫌いはありますか?……食事のです」
何の好き嫌い?と首を捻ると三塚がすぐに言葉をつけ足した。
「多分ない、と…思うけど」
「それならいいです」
三塚は鼻歌でも歌いそうに機嫌がいいらしい。それにしても凪は三塚を見て首を捻った。なぜこんなにすんなり三塚を中に入れても平気なのだろう?
……きっとケーキに餌付けされたんだ。あ、ケーキといえば、ホールケーキ持ってきたって…ちょっと見たい…。
さっき冷蔵庫に入れたと三塚が言ってたけど…。
一度気になったらうずうずして見たくなる。三塚にまた笑われると思いながらも今更だ!と開き直り立ち上がり、冷蔵庫に向かった。
「どうしました?喉渇いた?」
ジャ!とフライパンの熱せられ、野菜が入った音がする。
「…いや…その…」
「…………………凪?ケーキは後でです。飯の後」
「え!?」
「え、じゃないです。当たり前でしょう、見るのもダメ」
「どうして?」
「そんなの凪が見て喜んだところを俺が見たいからに決まってます。大人しく座っててください。ああ、ソファの方に少し横になってたら?」
「…………そうする」
見るのも却下されて仕方なく続き間のリビングに行ってソファに凭れた。まだ確かに身体にだるさは残っていたのも確かだったのだが、どうして素直に言う事を聞いたのか…。
三塚がまた笑っていた。
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