顔を上気させ、色の白い頬を薄紅に染めて目を潤ませて、唇をてらてらと濡れさせてるのはエロすぎで反則だろう。そのくせ拒絶するなんて。
手で顔を押し戻されて絋士は思わず笑ってしまう。
声で堕ちるかと思ったがまだ堕ちないらしい。
急ぐ事もないかと凪の体を離した。
そうすれば凪が安心したようにほうっと溜息を吐き出している。
今日は病みあがりだし、無理に進めてもどうやら過去に何かあったらしい凪は素直に頷かないだろう。欲しいは欲しいが急ぐ事はない。体だけだったらいいが、そうじゃない。この人の全部が欲しいんだ。
あのステージでの華奢な背中が絋士の脳裏に焼きついている。一人で孤独に立ってステージに向かう姿に心が締め付けられた。ずっと食事も喉を通らないと…真っ青な顔をして、それでも果敢にステージに向かう姿に心が震えてしまった。
どうやら自分は嫌われちゃいないらしいのはすぐに分かった。いつも耳元で声をかければ顔を赤くして体を震わせている。…感じてるんだろう。これが声だけにと思えば侘しい事だが…。
それでもその対象の中に入っているなら文句はない。
ケーキが大好きな凪はいたく絋士の作るケーキがお気に入りらしくさっきもわざわざケーキが見たくて冷蔵庫前まで来たらしい。
…可愛すぎる。
とりあえず拒絶もなく凪の中に入る事が先決だ。
今のキスだって本当に拒絶するものであったならそれこそもっと抵抗するはず。まずは餌付けして少しずつコトを進めていけばいいだろう。
「凪、食べて」
「あ、ああ…」
まだ仄かに顔を赤らめながらも凪が頷く。ほら…嫌がってはいないだろう。
「こういう事…やめてくれ」
「こういう事って?キス?」
ぱぁっと顔に朱を散らせる凪がまた可愛くてキスしたくなる。
「うーん…無理やりに…は気をつけます」
「無理やりとか!そういう問題じゃなくてっ」
「まぁまぁ、ほら早く食べないと。あとケーキがあるんですから」
「………」
凪が大人しくなって食べ物を口に運ぶ。
よほどケーキに期待しているらしいのがまたおかしい。
「…あの…ケーキ代払うから」
「いいですよ?」
「いいじゃなくて!だから、その…ケーキ代払うから…レッスンの時に…持ってきてもらっても…?」
「ああ…自分で買いに行くの恥かしい?」
「だって!すっかり覚えられてるし!」
「そりゃ覚えるでしょうねぇ」
いい男に女は敏感だ。
「店頭に並んでるのがいいですか?」
「いや…別にそうじゃないけど…三塚のケーキはどれもおいしいから…」
ぽそぽそと凪が小さく呟く。
「全部…どれも…おいしい」
……この人は!そんな事言われたら襲いたくなるだけなのに!
「危機感…薄そうですもんね。自己管理もなってないらしいし」
はぁ、と絋士は溜息を吐き出してしまう。すると凪が面白くなさそうにむっと口を尖らせる。
……なんだってこうやることなすこと可愛いのか…。
妹の真衣の方がよほど男らしいぞ?それに凪よりもずっとしっかりしてると思う。
「どうせ余った物は廃棄ですからね。気にしなくても…」
「廃棄っ!?」
「ええ。なので余らないように作らなきゃ、ですがまぁそこはどうしてもね…上手くいく時といかない時があるから…」
「………もったいない…」
難しい顔して凪が顔を顰めるのにまた笑ってしまう。きっと捨てるなら自分が食べたいなんて思っているのかもしれない。
…本当に…可愛くて…どうしたらいいのだろうか…?
何をしても絋士にはケーキがあるからか凪には嫌われはしないらしい。そこにはよかったと安堵するが、じゃあケーキがなかったらどうなのだろうか?もしかしたら凪には一瞥で一蹴されていたのかも、なんて思ってしまうと少しばかり複雑な気もしてくる。
そうはいっても凪を手に入れるためならもう使えるモノはなんでも使わないと。声もケーキも。凪の気を引くのに役立つならそれを武器にしてでも凪を手に入れる。
こんなに一人に執着を感じた事はなかったな…と絋士は頭を捻った。
恋愛も遊びの延長みたいな感じでそこに持て余した欲望の吐き出しと合わせた位だったのだが…。
今まで付き合った相手とは、女も男も軽くで結局どれも長続きしなかったが…。自分から欲しいと思ったのは凪が初めてだった。
あのステージ上の凪を思い出すだけでぞくりとする。そして目の前にいる凪の初心さに可愛くてキスしたくなる。
…誰かをこんな風に滅茶苦茶にしたいと思ったのは初めてだった。
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