自分は流されやすいのだろうか…?
人の好意に慣れていないから?
キスされたのになんでこんなに普通に出来るのだろう?いや、ちょっとした事にどきりとはしたりするけれど…。どうしても三塚に嫌悪感は浮かばない。
キスだって…三塚が詰め寄ってきたけれどそれを避けようとおもえば殴ったって逃げる事だって出来たはずだ。なのに自分はそれをしなかった。しかも…そのキスが気持ちいいとか…思ってたなんて…。
…だって…気持ちよかった…。三塚の甘い体臭が凪の鼻腔を刺激して、キスまで甘く感じた。いや、ダメだろ、と頭を小さく横に振った。
「どうか?」
「あ!い、いやっ!なんでもない!」
隣の三塚は平然としてキスした事など忘れたように何事もないようだ。
…それが面白くない…なんて言えた義理じゃないが…。凪がこんなに動揺しているのに慣れた様子で平然としている三塚を見ればやはり面白くはない。
「凪は休みは日曜日だけ?」
「え?あ、いや火曜日も休みみたいなものだ。三塚しかレッスン入れてないから」
「…俺だけ?」
「そう」
「…じゃあレッスンの時間以外は空いてる?」
「予定がなければ」
「それは好都合だ」
好都合?
「どこかに出かけたり遊びにいきましょうか」
「は?いや。別にいい」
「………家ばかりにいてもつまらないでしょう?」
「別に!」
今までだってずっとそうだったんだから今更つまらないも何もあるはずない!
「俺が連れて行きたいだけですので、凪は気にしないで」
「僕は別に行かなくていい」
…というか困る!
「おいしいケーキ屋もありますよ?」
「え?」
思わず惹かれてしまうと三塚が声をたてて笑い出した。
「俺は職業柄あちこち色々店知ってますけど?一応評判の店という所の味は確認しに行きますからね」
「………」
そうなんだ…?でも…。
「僕は…今まで食べた中で…一番…三塚のケーキが好きだから…別に…う、わ!」
がばっと三塚が抱きついてきて声をあげた。
「な、なにする!」
「ありがとうございます」
抱きついて来た三塚の声が耳に響くとやはりぞくりと身体が震える。
「できればケーキだけでなく俺自身も好きになって欲しいとこですけど?」
「…そ、そういうのは…ない」
あっても自分で認めない!いや!あっても、と思ってる時点で間違っている…。
「ダメだ…そういう事言うのもやめてくれ!」
「どうして?」
「困る!」
「困るんだ?…じゃあもっと言います」
「三塚!」
「だって嫌だ、じゃないって事ですから。困るのは凪の心がでしょ?俺の方を向くのが怖いから…だから困るだけでしょう?今はまだ何があったか聞きませんけど…。本気ですから」
三塚の視線がまっすぐ凪を見据えていた。その強い視線にどきりとしてしまう。だから!困る…のに…。
三塚の視線にも声にも落ち着かなくなるのに。
「……あのステージに一人で向かう凪を見て支えになりたい、とそう思ったんです。…倒れこんだのに、俺の手を振り切って立ち上がって孤独に向かう背中に…」
そんな事言うな!凪は耳を手で押さえた。
「凪!ちゃんと聞いて」
三塚が凪を抱きしめていた手を解き、凪の耳を押さえた手を外した。
「ふざけてません。本気です。初めから…凪に惹かれはしましたけど、あのステージの凪に全部俺は持っていかれたんです」
やめてくれ!
凪が泣きそうに顔を歪めると三塚は凪の手を離した。
「……本気ですから無理に進めようとも思ってません。あなたから俺が欲しいと思ってくれるまで…はね」
「……ない、と言っている」
「そんなの分からないでしょう?ですから、俺は俺がしたいからやっている事なので凪は気にしなくていいです。…夕飯はもういいですか?でしたら片付けてケーキ持ってきますけど?別腹で入りますか?」
「……入る」
凪が答えれば三塚がまた笑いながらソファから立ち上がった。そして食べ切れなかった分を片付けはじめる。
「残った分は冷蔵庫に入れておきますので明日チンして食べて下さい」
こくりと凪は頷く。
頭がぐるぐると回っている。本気って何だ?三塚が本気で自分の事が好き?欲しいと?
でも自分は怖くて無理だ。そんな事言いながら三塚が心では本当はどう思っているか分からないじゃないか。
人を信用するのが怖い。…それを裏切られるのが怖いから…。
たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)m
にほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説