瑞希も今日は大学だった。
でも今日はバイトはなくて、考え事しながら歩いて帰ろうと一つ前の駅からとろとろと歩いて帰ってきていた。
歩きたい気分だった。
アパートに帰ると宗の気配がそこかしこにある。
それに宗ももう学校を終わっている時間で帰って来てるかも、と思うとなんとなく敬遠じゃないけど、考え事が出来なくて、だからわざわざ一つ前の駅で降りた。
それなのに…。
いつもの自分の駅がもう見えてきて、結局考え事といってもなにも纏まるはずはなかった。
宗はもう帰って来ているだろうか?
だったらわざわざ歩かないで無駄な考えをする時間で帰って宗を見てたほうがよかった。
そんな事を思ってしまう位に宗がいて欲しいのに、一緒にいたいのに、思いは複雑で…。
宗は本当に高校生らしく、ちゃんと毎朝制服を着て出て行く。
そして瑞希のアパートに帰って来ていた。
それが嬉しい、と思えればもう瑞希は救いようがないと思う。
いつもの駅に宗と同じ制服が見えた。
二人いる。
はっとちょっと電信柱の陰に隠れるとそれは一人は宗だった。
もう一人は…?
宗よりも華奢な子。
色白で茶色かかった髪で、男の子と思えない位に綺麗な子だった。
はっと瑞希は宗が一番初めに言った言葉を思い出した。
男で綺麗な、と…。
あの子の事だとすぐに思い当たった。
もしかしてあの子は宗の好きな子…?
男に興味ないって言ってたけど、自分はあの子の代わりなのではないだろうか…?
それなら分かる。
男に興味なかったけど、あの綺麗な子が宗は気になっていたんじゃないのか?
それで瑞希で試したのか…?
「ぁ……」
宗の手が泣き出したあの子の肩を抱いた。
やだ、見たくない。
瑞希はくるりと後ろを向いて別な路に向かって走り出した。
用なしだ。
きっともう宗が来る事はないかも。
いや荷物や着替えが増えてるからそれは取りに来るかな。
ううん、宗だければ新しく買い換えれば済む事だろう。
だっと走って瑞希はアパートの自分の部屋に戻ってきた。
やだ。
見なければよかった。
相手の子なんて見たくなかった。
上品そうな綺麗な子。
きっと宗と住む世界が一緒の子だ。
こんな自分なんかとは違うだろう。
瑞希は靴を脱ぎ散らかしたままでベッドに突っ伏した。
身体を震わせ、声を抑えて泣いた。
少しして鍵がかちゃと音を立てた。そしてドアが開く。
「瑞希?帰ってる?早かった……どうした…?」
宗の声だ。
帰ってきた?
泣いている瑞希に気付いて宗が慌てたように部屋に入ってきた。
「瑞希?誰かに何かされたのか?」
何言ってるの…?
「なんで…?宗………?帰って、きた、…の?」
「…帰って来てダメだったのか?」
むっとしたように宗が言った。
「だって、宗はあの子の事が好きなんでしょ?」
「は?あの子?あの子ってどれだ?」
「だって!さっき駅で、抱きしめてたっ」
だっと瑞希の目から涙が零れだした。
違う!泣く資格なんて瑞希にはないのに!
それなのに、心は苦しくて悲鳴を上げて泣き叫んでいる。
「ああ?桐生?抱きしめた?抱きしめてなんかないけど?そんな事したら殺される」
宗が怪訝そうに言った。
殺される?
「だって…前に…綺麗な子だって…」
「まぁ、桐生は綺麗だとは思うけど。それだけで別に好きではないし。そんな事言ったら兄貴に追いかけられてしまう」
「…意味分かんないっ!」
じゃあ一体アレはなんだったのか?
「特別って言えば特別だが…」
やっぱりそうなんじゃないか!
瑞希は手の甲で涙を必死に目を擦って涙を抑えようとするけれど止め処なく流れてしまう。
「やっぱりそうなんだ。俺は金で買われただけで…あの子は特別なんでしょ…っ!いい、金いらないっ……やだ…もう…っ」
「瑞希!?」
瑞希は引き出しから袋を取り出して宗に投げた。
「いらないっ!いらないっ!……う…っ………特別な、あの子のとこ、行けば、いい………っ」
「……特別の意味がかなり、だいぶ、違うんだが…」
宗が崩れそうな瑞希の身体を抱きしめた。
なんでそんな事するの!?
「や……触んない、で……」
「やだね。なんでそんなに瑞希は泣くんだ?桐生の所に行けばいい、なんて言って、なんで瑞希は泣いてる?」
そんな事聞くなっ!
テーマ : 自作BL小説
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