「……おいしい」
「よかったです」
毎度毎度芸がないが…本当に三塚の作る料理が美味しくて毎回感動してしまう。
今日は和食なのか焼き魚に煮物にお浸しに浅漬けに味噌汁が並ぶ。
本当にケーキもおいしいが料理も美味しい。
味わいながらぱくぱくと食べていると三塚がダイニングの向いで満足そうに笑みを浮かべていた。
「凪においしそうに食べてもらえると俺も嬉しいです」
「だ、って…本当に…おいしい…」
なんかすっかり日常と化してしまっている…。もうここに三塚がいるのが自然な感じに思えて、いない日には少々寂しい気がするのは内緒だ。
断って、と思っていたはずなのにもうしっかりすっかり凪の向いは三塚の席になっていた。
「……僕はいいけど…助かるし、おいしいし…でも三塚の家は…?」
「え?ああ、家?別になんてことないですけど?家は皆料理出来るんで。今は妹が作る事が多いですがいらないと言っておけばそれまでだし。かえって王子が心配だからちゃんとお兄ちゃん面倒見てって言われてますけど?」
「…………」
どうして凪は見た事もないのに三塚の妹からお願いされなくちゃいけないんだ?
「俺はどうやら王子様の従者か召使かなんかみたいだそうです」
やれやれと言わんばかりに三塚が肩を竦める。
「そんな…」
「俺は別に構いませんけどね」
構わなくないだろうが!
………しかし、何がどうなってそんな話になっているんだ?
凪が首を捻っていると三塚が笑った。
「凪が教えているピアノの生徒のお母さんの情報網からですよ。俺が喋ったんじゃないです。もう倒れた次の日にはウチの店のパートさん知ってましたからね。それで俺も問い詰められて。俺が凪のコンサートに行ったのは知ってたましたから…。ウチの店の女子店員皆凪のファンですよ」
「…………」
ファンって…。どうにも複雑だ。
「あなたのステージの姿…見て欲しくないなぁ…」
「え?」
「ウチの人達に。今はただキャーキャー騒いでる程度ですけど、あの姿見たら絶対好きになってしまう」
「…ないだろ。それに僕にはそんな気などないし」
「ありますよ。もう俺なんか舞台袖から出てきた凪から一度も視線外せなかった…。そういや、お客さんにはクラシックには珍しく若い女性も多いですもんね」
「見てくれだけにひかれて、だろう」
「俺は違いますよ?最初は綺麗だな、と思ったのは本当ですけど。一番好きなのはやっぱケーキ食べてるとこかなぁ」
かぁぁっと凪が真っ赤になる。
「な、なんで!そんなとこ!」
よりにもよって一番人に見られたくないとこなのに!
「だって…幸せそうで可愛いから」
三塚がくすりと頬杖をつきながら凪を優しい目で見ていた。
……なんでそんな目で見る。
「…見るな」
「どうして?」
動揺するから…。
「凪?…どうして?」
凪は三塚から視線を外して顔を俯け首を振った。やっぱり…ダメだ。
このままじゃ…。
「凪」
三塚の声が…この声が悪い。優しく響くこの低い声が…。
かたん、と三塚が向かいの席を立ち上がって凪の傍に立った、と思ったらしゃがみ込んで俯いた凪の顔を覗きこんできた。
ふいとその三塚から視線を逸らすと三塚が手を伸ばして来て凪の頬に触れた。
距離が近すぎる。
心臓がうるさい。
そういえばキスだってされているじゃないか!すっかりなかった事のように忘れていた事を急に思い出してしまった。
「凪…過去に何があったのか…凪から話してくれるのを待ちますけど…」
「別に!なんて事はない!大学の時に好きだと言われて付き合った相手がいたんだけど、その相手は僕を崩すのが目的だっただけだっただけだ」
「崩す…?」
つい話さなくてもいい事を口にした。いや、この場の雰囲気が壊れるならそれでいい!
「そう。僕は一応学年でトップの評価を受けていたから…。他にも大学に入って初めて友達だと思っていた相手は皆ライバルで僕を蹴落とそうとしていた」
「………ああ…さしあたり、凪を好きだと言った相手は次点のヤツ?」
「…そう」
「人に慣れていなかった凪はそいつらによってたかって傷つけられたんだ…?」
「…そこまででもない。自分が馬鹿だったのだと思っただけだ」
「嘘ですね」
三塚が頬を撫でていた手をすっと首筋に落とすとぞくりと凪の背中が戦慄いた。
この手を払えばいいのに…。どうして自分は三塚の好きにさせているのだろうか…。
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