また好きだと言われてしまった…。
凪はつい三塚の事ばかりを考えてしまう。もうずっとだ…。
でもそれが嫌でもない…。
そしてもし本当だったら…?と、もし、がつくようになった。
…だって、今までそんな人いなかった…から。あんな風に凪の体調の悪い顔色やなんかも気遣ってくれる人なんかいなかった。声をかけてくる人はいても本当の意味で心配してくれるような人なんていなかったんだ。
自分のピアノの練習をしながらも頭の中は三塚だらけだ。
どうしてこんな事になってしまったのだろう?
だめだ、だめだと言いながらもキスを二回もされて、しかも気持ちいいとか思ってるし、ご飯の用意してもらって当然の様にして向かい合わせで食べてって…。
凪は自分の中では認めないと頑なに言い張って思い込んでいるのを自分でも分かっている。
分かっているんだ。
あの声にも匂いにも…触られても、言動にも心臓が落ち着かない事になるなんて…、それを知らないふりしてるだけなんだ。気付かないふりだけ。
だってもし…いや、三塚はライバルなわけでもないし、好意で凪の世話をしてくれているのだって分かっている。
でももし凪が三塚の手を取って…それなのにもしその手を払われたらどうしたらいいのだろう…?
いや、その前にもしそういう事になったら依存しそうで怖くもあるんだ。凪には身内も誰もいない。探せばもしかしたらいるのかもしれないが、そんな労力を使ってまで探したいというほどのものでもない。
「あ…」
携帯が鳴って凪はピアノの練習と頭の中の三塚を追い出して電話に出た。
「もしもし…あ、教授…はい。あ、ありがとうございます。…日曜日…はい、特に用事もありませんので是非拝聴しに…時間は?あ、はい。分かりました。…え?控え室の方に…?あ、是非!はい!」
大学の教授からの電話はピアニストの立花 創英(たちばな そうえい)の公開レッスンが凪の近くであるから行ってみないかという誘いだった。
立花 創英(たちばな そうえい)は父親もピアニストでサラブレット、凪なんかとは違う。確か凪よりも10歳位は上だったはずだ。教授が凪の事も言っておくので終わった後に控え室にまでも行っていいらしい。
…三塚の所のお菓子でも買って持って行こうか?うん、そうしよう。
その前に経歴などさらっておくか、と凪はピアノから離れてパソコンに向かった。
父が立花 始(はじめ)、ピアニスト。その息子創英もピアニスト。音大生だった頃にどちらのコンサートも聴きに行った事がある。息子の創英はちょっと神経質な所があるような印象を受けた。…自分の事は棚にあげて人の事が見えてしまうのはおこがましい事だが。それでも第一線でピアニストとして活躍しているのだから凪にも勉強になるはず。
父親のほうは穏やかなゆったりとした音を出すピアニストだった。年を重ねた分音に厚みがでるのか、といわんばかりのような深みのある音色を奏でた。
自分はどうなのだろう?
客席で自分が弾いている音を聴いてみたいものだが、どうしたってそれは無理だ。
公開レッスンだから三塚も仕事が休みなら誘うところだが、日曜は残念ながら三塚は仕事がある。
……いや、なんで三塚を誘う気になっているんだよ。いや公開レッスンは勉強になるから…。自分の中で言い訳しているのがおかしい。
「今日、教授から電話かかってきて日曜日に市内のホールでピアニストの公開レッスンがあるらしいんだ。僕はそれに行ってくるから」
だから日曜は来なくていい、と三塚に暗に意味を込めた。
「日曜?それ何時に終わるんです?」
「夜七時だったかな。あと行く前にお菓子買いに店に寄らせてもらうよ。そのピアニストに挨拶に行くから」
「分かりました。終わるのが夜七時…じゃあ、俺迎えに行きますからどこか外で食べましょうか?」
「え?」
「凪、あまり外でも食べないでしょう?美味しいレストランでもいいし、居酒屋でもいい」
「…え?あ、…でも」
「たまには外も新鮮でしょう?やっぱり初めての夜のデートですからレストランかな。適当に探しておきます。七時頃までにホールの方に着くように行きますから。
「あ、いや…いいよ」
「いいよ?何か予定でも?」
「いや、ないけど」
「それともウチで俺の作った方がいい?」
「別に!そんなんじゃ!」
くくっと三塚が笑っている。やっぱり三塚のペースで凪はどうにもいいようにあしらわれてしまっていた。
※昨日の記事にお気遣いや優しいコメント等ありがとうございますm(__)m
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