「どこ、に…?」
三塚の運転する車は迷いなく道を選んで走っているようだ。
「ああ。言ってなかったですね。俺のダチの店に行こうかと。創作イタリアンの店ですけど、いい?」
「いい、けど…」
「デザートまでつくので」
くくっと三塚が笑う。
「デザート多めにサービスしろと言っておきました」
「べ、別に!そんないいのに!」
「遠慮しなくていいですよ」
恥かしいだろうが!
でも、三塚の友達の店…?
すっかりもう凪の頭から立花の事は消え去っていた。
そして三塚に連れて来られた店はちょっと郊外にあって緑が多く、そしてシックでお洒落なレストランだった。
店内は仕切られておらずオープンでピアノまでおいてある。それでいて落ち着いた雰囲気だ。
「あら!三塚くん!いらっしゃい!待ってたわよ!」
店内に入ってすぐに同じ年位の女性に声をかけられた。…三塚の友達って…この女性…?友達…?
「ダチの嫁です」
こそりと三塚が凪に耳打ちしてきて凪はかっとして顔を俯けた。女性の出現に思わず穿った思いを浮かべてしまったんだ。やだな、と一瞬思ってしまったんだ。
「凪?どうか?」
「あ、いや…何でもない」
「こちらにどうぞ」
女性に案内され端の方の目立たない席に連れて行かれる。
「うちの店に誰かを連れて来るなんて初めてね!」
「そりゃ、ね」
…そうなのか?
「高比良です」
席に座って凪が挨拶すると女性が真っ赤な顔をして三塚の肩をばしばしと叩いている。
「ちょっとちょっと!そういう事なの!?」
「いや、まだ。今口説き中だ」
平然と三塚が答えるのに凪は目を剥いて真っ赤になった。
「まじで!?すっごい目の保養~。三塚くんもいい男だし…はぁ~。あ、旦那呼んでくるね~」
ご機嫌の様子で女性がいなくなった。
「く、…口説き中とか…言うな」
「どうして?だって本当の事ですから」
「恥かしいだろッ」
「………恥かしいだけ?人にバラされて嫌じゃない?」
あ、全然そこは何とも思ってなかった…と凪が思ったら三塚がくすりと笑った。
「ここの店は…ダチは本当に俺の事よく知ってるんです。なにしろ小学校からずっと一緒だったから」
「…そうなんだ?」
へぇ、と凪にはそんな友達なんていないので新鮮だ。
「そう。さっきダチの嫁も言ってましたけど、ここに来る時は俺は一人です。いつもね」
「………」
三塚の特別な場所…?そういう所に連れて来てくれた…って事か…?
「よう。いらっしゃい。あ、初めまして野田と申します。コイツとは腐れ縁でずっと一緒なんでなんか弱味知りたい時はなんでも聞いて下さい」
「おい、コラ」
初っ端の挨拶に凪は笑ってしまった。
「テメーはダチ売んのか」
「ウチの嫁に散々ある事ない事告げ口してたのはどいつだ?仕返しするに決まってるだろ」
「そのおかげで結婚に至ったんだろうが。感謝しろ」
「しかし…ふぅん?ここ最近休みに全然来ないと思ったら、そういう事?」
にやにやしながら三塚の友人が凪と三塚を見比べて来た。
「いや、まだだ」
「口説き中だって?」
いたたまれなくなって凪は顔を俯ける。
「本気なんだ?」
「そう」
「まぁ、いい事じゃん。で?どんな関係で知り合った?」
「凪はピアニストで、近所でピアノ教室してる」
「高比良 凪です」
まだ自己紹介もしてなかった、と凪は小さく頭を下げながら三塚の友人に頭を下げた。
「…ピアニスト!あ…すみません、ウチでディナーショーとかしてくれません?ピアノのある店にしたくて気を張ってピアノ置いたものの誰も利用してくれなくて!」
「…僕でいいならいいですけど…?」
いいのか?と三塚の顔を見れば三塚は難しい顔をしている。ダメなのか?
「…前みたいな事になりませんか?」
あ…コンサート前の事か?
「…多分…これ位なら大丈夫だと思うけど…」
「それならいいですけど…」
まだ三塚の顔は怪訝そうにしている。…心配してるって事か…。
「マジで!?ちょ…後で詳しく話!いいですか!?」
「後でな。まず飯食わせろ」
「あ、すまん!すぐ作ってくる!あ、飲み物は?」
「俺は車だからだめ。凪は?グラスワインでももらう?あ、いや、甘めの…そういや前にストロベリーのワインがどうのって言ってたな?それ、凪にくれ」
「了解」
「あ…」
いいのに…と思ったがすでに決められ三塚の友人は嬉々としながら奥に引っ込んでしまった。
やっぱりどうにも三塚相手だといいように物事を進められてしまうらしい。でもそれも嫌ではないんだ。凪の為にしてくれているというのが分かるから…。
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