「…甘い。飲みやすい…」
「それはよかった」
凪はあんまり酒は飲まないけれどもらったストロベリーのワインは飲みやすくておいしかった。
それに料理も。三塚が作る料理もおいしいし、さすがその三塚が来るような店だ、と思う。
こういうお洒落な場所に一人で来る事はないし、誰か一緒に来る人もいないので学生の時以来かもしれない。いや、学生の時もせいぜいランチ位で、グループで行った事ある程度。誰かと二人で個人的に、は初めてか?
…そう思うと本当に自分は寂しい人間なんだと思ってしまう。
「口は悪いですけど、料理は確かですから」
「…うん…おいしい。三塚…その、ごめん。僕が運転できれば三塚飲めるのに…」
「別に構わないですけど?凪がよければいいです」
くすりと笑う三塚の顔が優しげで照れくさくなる。
「あの……本当にありがとう。…迎えに来てくれたのにも…感謝する」
「………さっきのあの男の事?」
こくりと凪は頷いた。
「本当に…嫌だったんだ…どうしよう、と思って…三塚が来てくれて……本当に…助かった…」
「…………俺、……期待しても…?」
「………」
答えられなくて凪は顔を俯けた。
「……後にしましょう。今は料理と時間を楽しんで欲しいから」
困惑した凪を気遣うように三塚が話題を逸らす。三塚のこういう所が大人で余裕に見えるんだ。
「さっき野田が言ってたディナーショー…本当にいいんですか?」
「こちらさえよければ僕は別に構わないよ?クラシックでいいなら…イージーリスニングとかジャズも弾けなくはないけどイマイチだ」
「クラシックでも愛の夢とかノクターンとかゆったりの曲ならいいでしょう」
「あと何がいいかな…」
「シューベルトの即興曲とかは?ベートーベンでも悲愴の2楽章とかもいいような気もしますが…誰でも聴いた事のある曲がいいでしょうね。クラシックのコンサートならですけど、多分来るのはここに来るお客さんでしょうから。あ、この間アンコールで弾いた雨だれもいいですね」
こういうピアノの話を普通に出来るというのも凪としてはありがたいと思う。なにしろ凪はピアノしか話題がないんだ。
「本当にこの間みたいになりませんか?」
「多分。これ位だったらそこまでプレッシャーもないかな…。あっても多少位だと思う」
「…まぁ、今度は俺も離れる気もないですけどね。食事管理ちゃんとしてあげますから」
「………あの時も…ケーキ…野菜の…美味しかった。雑炊も…。本当に食べると吐き気してダメなんだけど…いつも…」
「そりゃ!凪の為だけに作ったものですからね。またいつでも作ってあげます」
「………」
困ったな…。どうにも三塚の言葉と態度にどぎまぎとしてしまう。だって今日はなんかずっと三塚のいつもと違う面ばかりを見せられている気がする。
でがけに照れた所を見せられ、いってらっしゃいをもらって、迎えに来てくれたときは焦った所といつもの自信が揺らいでいる所。それなのに凪を安心させてくれるためにか手繋いでとか…。そして三塚が誰も連れて来た事のないという友達の店。
どれも特別な気がしてくる。
友達にも本気だとか、口説き中って普通に言ってるけど…。
「デザートお持ちしました」
三塚の友人の奥さんがニコニコ顔で運んできてくれる。
「あれ…?」
でも置かれたのは凪の前だけ。しかも色々種類も量も多い…?
「三塚は?」
「俺はいらないので。その分も凪にサービスしてもらった。どうぞ?」
いいのかな、と思いつつフォークを手に綺麗なデザートを口に運んだ。
「………あ、れ…?」
おいしい、という感想の前に疑問が浮かんだ。
「どうしました?うまくない?」
「いや、おいしい…けど」
何種類かあったデザート全部に口をつける。
「これ…三塚…作ったのか…?」
「いいえ?俺はレシピ教えただけ」
「あ、なるほど…だから三塚の店のと同じ感じなんだ…おいしい」
納得すれば凪は幸せ気分で味わえる。
「……もしかしてここくればデザートに…」
「……凪?近くにウチの店があって、俺も暇たって凪の家に出入りしてるのにわざわざデザートの為にまさかココ来る気ですか?」
「………そういうわけじゃ…」
だって、ケーキ屋に行くのは恥かしいけど、コースのデザートだったら恥かしくないし三塚に迷惑もかからないじゃないか。
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