「瑞希?なんで?」
「そんなのっ!…宗が…好きだからに決まってるでしょっ!宗が違うの知ってるけど…だからもういいっ!苦しいっ……やだ……」
こんなに苦しいなんて知らなかった。
金がなくてもこんなに苦しくない。人に何言われてもこんなに酷くない。
こんなに泣けるなんて事などなかった。
宗の事じゃなければいくらでも歯をくいしばって自分で踏ん張ればどうにかなった。
でも相手が宗だったらいくら自分が踏ん張った所でどうにもならないのだ。
「瑞希」
宗がぎゅっと瑞希を抱きしめる腕を強くした。
「苦しくない。俺も瑞希好きだし」
「な、なに言ってる……」
宗はおかしくなったのだろうか?
「あの子は…っ」
「だからアレは兄貴のものだ。ほぼ兄嫁。いや、どっちかってぇと兄婿だな。尽くしてるの兄貴のほうだから」
「………は…?」
「さっき見なかった?兄貴。すぐ来たんだけど」
「……見て、ない…」
「はぁ……よりによって誤解しそうなとこだけ見たってか…。いいよ、そのうち紹介するから」
「しょ、紹介っ!?だ、誰を!?」
「紹介、だろ。瑞希を。恋人ですって」
「な、な、何言ってる!?ソレ、おかしいっ」
「なんで?瑞希は俺が好き、ってさっき言っただろ」
「言った、けど…宗は違うっ」
「は?なんで?俺も瑞希が好きだって言っただろ。…気付いたのは最近だけど。でも始めからだろうなぁ…」
「な、なんでっ!?」
「……なんで?って……そうじゃなきゃ男なんて抱けるはずないだろ」
「だって……宗、俺、買った……って……お金……」
「ん?金なんてどうでもいいけど…そう瑞希に言えば瑞希を閉じ込めておけるかと思って。全然瑞希は俺置いて平気でバイトに行っちゃうけどな」
「だって…稼がないと…」
「だからいいのに。なぁ、お願いあるんだけど?」
「な、何……?」
「コンビニのバイト辞めて?」
「な、なんでっ!?」
「だって瑞希4月から社会人だろ?そしたら纏まった時間なんか取れないじゃん。だから今の内に散々満喫しておきたいんだけど?今から3月まで。だめ?」
「だ、だ、ダメっ!やだっ!」
「その代わり別なバイトなら許すから」
「……別な…?」
「そ、俺のとこで」
「何言ってるの?」
「多分就職先でも使えると思うけど?」
「え…?」
瑞希は首を捻った。
「それは後で話すけど。今は瑞希抱いていい?隣いないしまだまだ帰ってこないだろ」
宗が瑞希にキスしてきた。
「瑞希…好き。可愛い」
「そ、宗……?飽きたんじゃない、の…?」
「はぁ?なんで?」
「だって……全然…抱いて、……くれなかった…」
「……待ってた?ああ、いつだかキスしてきたよな。あれも誘ってたのか?」
「ち、違うっ!……」
「だって瑞希の様子がおかしいから」
「宗……が…俺、買った……から、…俺、宗の…おもちゃ、だと…」
宗が頭を抱えた。
「なるほど。瑞希はそう思ってたんだ?」
「俺はっ…ずっと、宗…好き…だ、ったのに…宗は違う、から」
「…あのな……。男好きなわけでもないのにお前のどこもかしこも舐めてるのに、好きじゃなきゃ出来るわけないだろ」
「だから……あの子…の、代わり、なんだ…って…」
「どんだけだよ」
はぁと宗が嘆息した。
「桐生は桐生だろ。瑞希は瑞希だろうが。それに桐生は舐めたいとも突っ込みたいとも思わない。今ならさらに真っ平ごめんだ。それこそ1千万くれるって言ったって無理だ」
「……なんで…?」
瑞希には1千万払ってだってしたのに…。
「兄貴が突っ込んだとこに入れられるかっ。瑞希、もういいから」
宗は瑞希を抱っこして抱き上げた。
「そ、宗っ」
「誰にもしねぇよ。瑞希だけだ」
宗が瑞希を狭いベッドに横たえ服をたくし上げた。
「お前のここも、下も知ってるの全部俺だけだろ?」
「全部…宗しか、知らない……誰とも、何もした事ない…。だってここ部屋いれたのだって…宗だけ…。俺に優しいのも、全部宗、しかいないし…」
「ずっとそのままがいいなぁ…。そしたら瑞希は俺だけいればいいだろ」
宗の唇が瑞希の唇を啄ばんだ。
「…なぁ、もしかして、キス、も…?」
「ないよ。誰も俺なんかに近寄らないし」
「……感謝だな。瑞希は俺の為だけに捨てられたんだ。全部が俺の物になるためにな」
瑞希はぎゅっと宗にしがみついた。
そんな事言われたら瑞希はどうしていいか分からなくなる。
テーマ : BL小説
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