「凪…一緒に風呂」
「いかない」
「明日は…」
「ピアノ練習する。お前の友達のとこでも弾くんだったら余計に練習しないと。普段があんまり練習出来ないから。昨日の日曜も出来なかったし」
「………そっか…」
「………ごめん」
凪は案外自分に自由は少ないんだ、と考え込んだ。三塚だって休みは火曜だけ。凪は日曜と火曜だが、日曜日はなにかとピアノ関係の用事がはいったりする事も多い。そして自分のコンサートなんかも入れるのは大概日曜日にだ。そうなると空き時間は全部練習時間になってしまう。
そうしたら三塚と時間を過ごせるのは夜のほんの少しだけ…?
凪が難しい顔をして考え込んでいると三塚がソファの隣に座って凪を抱き寄せて来た。
三塚が用意してくれたご飯を食べて今はゆったりした時間。そんなほんのちょっとの事にでさえ凪の心臓がどきりと跳ね上げるのは内緒だ。
「何考えてたんです?」
「え?あ、いや…その…時間が…短いな、と」
「時間が短い?」
何の?と三塚が促す。
「休み…三塚は火曜日だけだろう?僕は日曜と火曜は三塚のレッスンだけだけど。でも日曜日ってわりと昨日みたいに用事がある事も多いんだ。講習会があったりとか…。それに火曜も休みと言ってもコンサートとかあれば練習しなきゃないし…。そんなんでいいのかな…とか」
「いいのかな…って…?」
「三塚が…だってそれじゃ…いっつも僕がしてもらうばかりで…」
「そんな事」
くすりと三塚が笑う。
「言ったでしょう?俺が好きなのは凪が幸せそうにしてケーキとか俺作った飯とか美味しいって食ってくれるとこですけど?」
「…そ、そんなとこ…」
「あ、バスからかわいくバイバイしてくれるのも好きですね」
「そ、そんなとこっ!」
「ピアニストの高比良 凪も好きです。そこは好きというか、尊敬ですね。あの日の凪に痺れましたから…。そのくせケーキ食べてる時の凪の顔ときたら…」
ぷぷと三塚が笑う。
「ギャップ萌え?あ、たまに冷たくなる時の凪にもちょっと痺れます。そのくせエロいとことかはやばいですけど」
「………なんか聞いてると…僕はハチャメチャじゃないか…?」
「だからいいんでしょ?なので気にしないでいいです。俺言ったでしょ?あなたの支えになりたいって。凪を作っているのは高比良 凪というピアニストだ。俺が独り占めしていい人だとは思ってないですから。高比良 凪というピアニストに惚れている。ただね、…あの日のあまりにも孤独な背中に俺がいるから、ついてるから、一人じゃなくていいから…と言いたくなったんです…。あまりにも華奢で折れそうな背中に…。これから先、凪のコンサート、リサイタル、すべてに俺ついていきますから。…あ、邪魔じゃなければですけど」
「………」
凪は小さく首を横に振った。
「え?いらない?」
「……違う…」
凪は自分から三塚の首に腕を回した。
「ど…して……そんな……?」
「どうしてって。高比良 凪の全部に惚れちゃってますから。ぐだぐだに甘やかして俺以外の誰にも凪のプライベートな顔を見せたくない位に。ピアニストの部分は仕方ないのでいいです。でもケーキ食べてる凪の顔とか、エロい凪の顔は俺だけのものです」
「三塚だけだ…そんな僕を知ってるの…」
「うん。そのままね」
くすりと笑いながら三塚がキスする。
「凪…今日は勿論我慢しますから…一緒寝てもいい?」
「………いい」
「なんだ…よかった。ソファで寝ろって言われるかと思った」
そんな事言うはずないだろう。勿体無い。
「それにね。さっきの続きですけど、時間が短いってやつね。これから先いくらでもあるでしょ。急ぐ事ないし無理することない」
「…そう、か…?」
「そうです。ゆっくり回り道だって一緒に歩けば楽しいでしょ」
イメージが…。
白い何もない世界に凪は独りだった。舞台の上でもどこでもいつでも一人だった。常に前を向いて、顔を上げて俯ける事もなく、後ろを振り返る事もなく、ただ必死に睨みつけて前を向いていた。倒れそうになってもずっと…。それが、後ろから三塚がそっと寄り添って立ってくれた。後ろをちょっとだけ振り返るとそこに三塚が手を広げて立って…。
泣きそうになる気持ちを抑えて三塚に抱きついていた腕にさらに力をこめた。
「凪…?」
「………ありがとう…」
「どういたしまして」
ぽんぽんと三塚が凪の背中をあやすように優しく叩いてくれた。
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