しばらくしない、って確かに言ったけど、あの日は本当にちょっと、いやかなりだるい、とは思ったけど…。
「おいしくない?」
「美味しい。……いいけど…僕はそのうちぶくぶく太るんじゃないだろうか…?毎日美味しいご飯にケーキも…」
「あはは!ないでしょ!それいったら惣菜のほうが偏食になりやすくて太りますよ」
「そうだろうか?」
三塚は至って普通だ。
普通だけど…いい、のか…?
別に凪はしたくないわけじゃないんだけど…。ちょっと恥かしかったというのもあっただけなんだけど…。
でも三塚がしたくもないのに自分から言う必要も無いか。
したのは先週の日曜でもう一週間以上経って…明日は休みなんだけど…。
「凪、明日遅いランチしに野田のとこ行きませんか?それ位の時間はいい?打ち合わせしたいと連絡来てたんですけど」
「いいよ。曲…決めないとな。野田さん…か奥さんかリクエストあるかな?」
「野田はないと思いますよ。クラシックとか興味なし。俺のリクは?」
「カンパネラだろう?」
「あとノクターンのOp(オーパス)9-2ね」
「まぁ有名だしね」
「ああ…でも雨だれも捨てがいな…」
アンコールで弾いた雨だれがそんなによかったのか?自分じゃ朦朧としてたからイマイチ覚えていないけど。
「それならリストとショパンで纏めたら?リストはカンパネラと愛の夢でしょ。ショパンはまぁいっぱいありますけど。ポロネーズ系…英雄ポロネーズとかもいいですね。エチュードも革命とか木枯らしとか聴きたいですけど…ディナーの雰囲気には合わないな…」
残念、と三塚が苦笑する。
「静かすぎるのばっかりでも…だから英雄ポロネーズはいいかもな。三塚も曲英雄ポロネーズレッスンするか?」
「冗談。俺の今だとそれは難易度高すぎです。あ、じゃあ雨だれで」
「それは簡単だろう?」
「いえ。いいの。簡単な曲を聴かせるって演奏にしないとね。って別にどこでも人前でも弾く気ないですけど」
「……ないのか?勿体無い」
「ないですね。これはあくまで俺の趣味なんで。あとは凪との時間の共有かな。凪の事知る一番はピアノでしょうからね。趣味と実益兼ねて」
あれこれと曲の話で盛り上がって、そんな時間は過ぎるのが早い。
そして三塚は普通の凪を腕に抱いたままおやすみなさい、とキスして目を閉じてしまうんだ。
あれから毎日三塚は凪の家に帰ってくる。帰ってくるといっていいのかどうか分からないが…。凪の家から歩いて自宅のあるケーキ屋に出勤だ。
どうにも変な気がするが、いいのだろうか?
凪に無理しなくていいと三塚は言ったけれど、三塚は無理していないのだろうか?
いつもそこが気になってしまう。
いつも凪は三塚に甘やかされていると思う。自分が三塚にしてやっている事など何一つないんじゃないか、とも思ってしまう。せいぜいレッスン位か?でもそれはレッスン料ももらってるんだからしてやってる事にはならない。
なにか…。そういえば三塚の好きな物ってなんだろう?
「凪?何考えてるんです?」
三塚が電気を消して凪を腕に抱きながら頭にキスする。こんな些細な事だって凪はどきりとしてしまうのに。やっぱり三塚は余裕だ。
「…三塚の好きな物って何?」
「凪」
「ち、ちがくて!」
「ちがくないですよ。好きで大事なもの…大事すぎてどうしようって感じですけど」
「そうじゃなくて。その僕がケーキ好きとか、そういうのと同じように」
「うーん…わりと執着ないですよね。俺。ピアノは好き。凪がケーキ食べてるとこ見るの好き」
「だから!そこは違うだろ」
「でもそうなんですもん」
「じゃ、じゃあ肉と魚だったら?」
「うーん。おいしいならどっちでもいいけど?」
「………」
それじゃ全然意味ない。
「どうしたの?急に」
「だ、って…僕ばっかりもらって…世話なってる…」
「だから。気にしなくていいって。俺が好きでしてるんですから。凪こそウザくない?」
「…ない」
むしろくすぐったくて嬉しい。自分個人をこんな風に大事に思ってくれているのが分かるから…。
与えられるだけでいい?それは違うと凪は思うんだけど…。なにしろ自分でどうしたらいいか、が分からない。こんな事初めてだから…。
こうして一緒に寝るだけでも凪にはくすぐったくて嬉しい。
すりと三塚の甘い香りのする首筋に顔を押し付けた。
「あ、ダメ」
三塚がくい、と凪の顔を手で離す。
「余計な事しない」
余計な事ってなんだよ!
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