「したくなっちゃうから」
……だから別に凪はしたくないわけじゃないと言うのに。
「…それとも…もう…いいの?」
あ…声が…っ。
三塚の声が耳のすぐ傍で響いて凪が思わずびくんと身体を竦めるとはぁ、と三塚が溜息を吐き出した。
「はい。寝る」
ぎゅっと三塚が凪の身体を抱きしめた。
…しない…のか…。欲しいとかなんとか色々言うわりに三塚は全然してこない。ここんとこはキスも軽くだし…。凪からしばらくしない、とは言ったものの別に嫌だと言ったわけでもないのに。
…こういう時…どうしたらいいんだ…?
自分からしていい、とかまさか言えないし…。
なんか自分がこんな事考えてるのもちょっと…。したくないわけじゃないけどしたいのかと言われれば微妙な気も…。いやしたくないんじゃないけど…。
…一体どっちなんだよ…。
自分でも分からなくなって寝ちゃえ!と凪は目を閉じた。
温かいんだ。三塚の傍も体温も…こんなに安穏としていいのだろうか?と思う位に。誰かの傍が居心地がいいなんてのが初めてでどうしても戸惑うことが多い。母親にさえ顔色を窺ってきたのに…。
いや、だからこそ今こうして考えてしまうんだ。三塚はメンドクサイって思わないだろうか…?どうしても凪は人に慣れていないし不器用なはず。付き合い方だって分からない。今までは別にそれでよかったのに…今は三塚のこの腕を離したくはない…。
さっき、したくなっちゃうから…って言ったんだから…そういう気はあるって事だよな?凪がしばらく無理って言ったから我慢してる?だったらやっぱり凪からいいよ、って言わなきゃないのか?
…なんかそれも途轍もなく恥かしいと思うけど…明日は休みだし…ゆっくりできるし…明日…。三塚は凪を大事だと言ってくれるけど、凪だって三塚の存在は大事だと思っているんだ。貰ってばかりだけど、凪だって三塚に与えたい…と思っているんだ。
やっぱり自分からちゃんと…。
よし、と決めて凪は目を閉じた。…本当はキスももっとしたいな、と思ったけど…我慢。明日、ちゃんと…。
三塚には我慢しないで向かい合いたいと思っている。三塚も我慢しなくて無理しなくていいと言った。そこ等辺もちゃんと言わないと。凪だって三塚に我慢とかして欲しくないんだ、と。
そっと三塚に擦り寄れば腕で抱きしめてくれる。
それが嬉しいんだ…。
「リクエスト何かありますか…?もしよろしければ、ですけど」
「はい!愛の夢が…聴きたいですっ」
三塚と一緒にまた友達の所へ。ランチが二時までだというギリギリの時間に行ってご馳走になった後打ち合わせに入った。そこでリクエストを聞いたら奥さんが手を上げながら言って三塚と笑ってしまった。
「一応候補に入れてましたよ」
「よかった!好きなんです~!」
「俺は分からないのでお任せします。それで日程なんですけど…いつ頃…?」
「そうですね…」
東京でのコンサートはまだまだ先なのでいつでも構わないが…。
「一ヶ月後位でも?」
「あ、全然大丈夫です。料理も少しその時用に別メニューをと思ってますので。三塚、デザートも」
「…分かった。凪、試食してくださいね」
それは勿論、と凪はこくりと頷く。そんなの凪には嬉しい事でしかない。
日時は一ヵ月後。
三塚が来るようになったのが3月。そしてもう6月だ…。さらにあと一ヶ月経てばもうすっかり真夏になっているだろう…。時間が過ぎるのが早い。
そしてこれからも三塚はこうして隣にいてくれるのだろうか?
打ち合わせをいう事で隣に座った三塚にちょっと視線を向けた。
本当に…?と思うけれど…。
そして向かいに座る三塚の友人夫婦を見れば二人がにこにことして凪のことを見ていた。
「…あ、の…?」
何だろうと思って凪が頭を傾げる。
「……余計な事…凪に吹き込むなよ」
「余計な事?」
ぷ、っと友達が笑っている。
「ホントに本気なんだなぁ…初めて見る!」
くっくっと三塚を見て友達が笑っていると三塚が少しだけ顔を赤くした。
「高比良さんは知らないだろうけど、コイツ本当に悪いヤツですよ?」
「余計な事言うなって言ってるのに!」
「悪い…?」
「そう!」
「……どこが?いいヤツ…だと思うけど…」
あはは!と声を出して夫婦二人に笑われた。
「ダチとしてならいいヤツだけど!今までの…」
「野田」
「うい~。黙っときます~」
今までの…なんだろう…?
凪は首を傾げた。
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