料理がお客さんの所に運ばれ色々な声が聞こえてくる。でもその声のどれもが満足そうな楽しそうな声で凪はよかったと一安心した。
「高比良さん!」
凪と三塚の所にも料理を運びに来てくれた奥さんが凪の手を取った。
「す…………っごく!よかった!ですっ」
「…それは分かったから、ハイ、凪の手離す」
すぱっと、三塚が凪の手を奥さんから取り上げた。
「油断も隙もねぇな」
「……三塚くん最低」
じろりと奥さんが三塚を睨み、三塚は顔はにこやかだが目が笑っていない。
「ありがとうございます。そう言っていただけてよかった」
今までは賛辞にも穿った思いで聞いていたけど、奥さんに目を潤ませながらそう言われれば素直に嬉しいと思えた。
「愛の夢お好きだと言ってらしたから…」
「私の為!?」
「んなわけねぇだろ。ふざけんな。凪は俺ンだ。テメーの旦那はあっちだろうが!」
「なによ。いい男のほうがいいもん。いくらいい男でも三塚くんはゴメンだけど」
「こっちだっているか!」
べ!っと奥さんが三塚に舌を出す。
「高比良さん…どうぞお食べになってください。あ、あと…お客様がご挨拶したいって方が何人かいらっしゃるんですけど…。お帰りになる時にでも…だめかしら?」
「いいですよ」
直に声を聞けるのは滅多にない事でありがたいことだ。
三塚とはあまり喋りもせずにただ時間だけを楽しんだ。まだなんとなく凪の心が浮遊している感じがする。
そしてお客さんが帰る頃に凪もが店に出ると何人かがわっと寄ってきた。口々に感想を言われそれをありがたく受け取る。
今度コンサートある時行きますと言われれば悪くなかったんだとほっとしてしまう。
感動したといわれるのにも素直に受け止められた。
前はどこに?とか思ったりしてどうにも素直に受け止める事が出来ずにいたのだが…。
「すごくよかったです!」
「ありがとうございます」
男性同士で来ていた人だ。片方の人は年が上で三塚位背が高いだろうか?
あれ…?
「あの…失礼ですけどどこかでお会いした事…?」
「ない…と思うけど」
声をかけてきた人は自分と同じ年位だろうか?でも随分と可愛らしい感じだ…。でもやっぱり見た事あるような?もう一人の連れの人も…。
どこで、ってピアノ関係しか思い浮かばないが、どうにも思い出せない。
「どうしてこんなとこでこんな演奏を…って言ったら失礼ですね…。コンサートの予定とかあるんですか?」
凪よりも身長がちょっと低いらしい。可愛い顔でにっこりして凪をじっと見ながらその人が聞いて来た。
「あります。東京で9月に」
「そうなんだ!じゃあ行こうかなぁ…すごく綺麗な音だった」
「ありがとうございます」
やっぱり見た事あるな、と凪は頭をフル回転させながら記憶を探る。連れの人もどっちも見た事ある。
「こちらこそ!いい音楽を聴かせていただきました!」
にこやかに礼をして二人が連れ立って店を出て行く。
仲よさそうだな…と思っているとまた別の人に声をかけられて凪は対応に追われた。
でも見た事のある二人が気になって頭の隅で考える。どこかで見ている。でも会った事はない…?
うーん…と頭の中でずっと呻っていた。
お客さんが全員帰ってお疲れ様でした、と野田さんが厨房から出てきてた時唐突に思い出した。
「あーーーっ!!!」
大きく口を開けて凪は口を押さえた。
「凪?どうか!?」
片付けを手伝っていた三塚が大きな声を出した凪に驚いてすぐに寄ってきた。
「三塚!あれ…あれ…!」
「あれ?」
「さっきの男性二人連れ見た!?」
「ああ、カップル?」
凪は三塚の胸の辺りを掴んで揺すった。
「カップル…だよね……確かに……じゃなくて!アレ!多分!桐生 明羅と二階堂 怜だっ!」
「………それ…俺でも名前知ってるぞ…。ショパンコンクールで二位のピアニスト…だっけ?あと指揮者とピアニストの…息子で作曲家の…?」
「そうそう!それ!……多分、だけど!二階堂 怜のコンサート行った事あるけど!すごかったんだ!あの…でも…なんか大分違うような…?でも…多分そうだと思う!天才はあの人達みたいなんだ!平凡な僕には想像も出来ない位の音楽で…ああ…気付いてれば…!」
すぐに気付かなかったのが悔やまれる。
「……なんで今日ここに…いたんだろう…?」
興奮したのが治まってくると今度は青くなってくる。
あんな人達の前で自分は演奏したのか!?
今更気付いて凪は足が震えてきた。
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