「ありがとうございました」
「こちらこそ…楽しい時間を過ごさせていただきました。本当に…」
凪は心からそう言うことが出来た。なにしろ初めて自分でも満足できたのだ。今までにない進歩だと思う。
「よろしかったら本当にまた是非演奏して欲しいです」
「ちゃんとギャラ払うようにしろよな」
「え~……そこは料理で…」
思わず皆で笑ってしまう。
「でも!本当にステキだったぁ…」
奥さんが顔を赤らめて心から言ってくれているのが分かればくすぐったい。
「そう言っていただけてよかったです」
「三塚くんには勿体無い……」
「んな事分かってるよっ!」
そんな事ないのに…。自分の方がよほど三塚にさんざん世話になってるんだから…。
「さ、凪、帰りましょう」
「うん…あ、また…僕も料理食べに来てもいいですか…?」
「どうぞどうぞ!是非!…三塚、ちゃんと連れて来いよ」
「え~…あんま気が進まねぇな…」
三塚が嫌そうな顔をする。
「二人で余計な事ばっか凪に言うし!」
「だって!三塚くんに騙されてたら大変!」
「………もう来ねぇ。凪、いくぞ」
好き勝手に言ってる3人に笑ってしまう。
本当に飾ることもなく言えるっていいな、と凪は羨ましく思ってしまう。
「野田さんの奥さんとも仲いいね」
三塚の車に乗るとほっとしてしまう。高い身長のわりに小さめな車が可愛いな、といつも思ってしまうんだ。
「ああ?…まぁ、中学から一緒だしな」
「え!そうなんだ…?」
「そう。腐れ縁だろうな…凪も小さい頃からこっちにいれば同級生だったろう?」
「…そうだろうけど。でも僕は…多分…」
きっとどこで育ったにしてもきっと友達もいない寂しい奴に変わりないと思う。
「今、こうしていられるならいいだろ?」
「………ああ」
自分に大事に思える存在が出来るなんて思ってもみなかった。そしてそのおかげで今日きっとこんなに心穏やかにいられているんだ。
人前で弾く前も練習の時もずっと焦燥感と不安感ばかりが凪を包んでいるのが当たり前だったのに今日はそれがなかった。この間からずっと、だ。
いつもは練習だってしてもしても足りない気がして狂ったように時間がある限り練習していたのに、毎日三塚が来るから三塚に聴かせたくなくて午前中に集中して練習も出来たんだ。それに話をしたりして気も紛れて…。なんか本当に全部三塚のおかげで自分の精神状態がよくなっているのが分かる。
…もし…三塚に飽きられたらどうしたらいいんだろう…?
どうもこうも…きっと凪は壊れるだけだ。今までだって十分壊れていたんだから今更か。
「…凪はピアノの先生やめて演奏家だけ…って考える…?」
「どうだろう…。依頼がくれば…多分」
「でしょうね。今は新しい生徒さんって」
「とっていない。三塚は大人だったからいいかなって。今いる子達は母親の生徒さんだから…多分中学校になる子も多いし減ると思う…。そうしたら演奏中心になっていくかな…」
どうしてそんな事?
でも三塚はそれ以上何も言わなかった。
そしてそのまま凪の家に着いた。もうすっかり三塚と一緒にいるのが当たり前になっているんだけど…三塚は本当にいいのだろうか?そう思いながらも凪は聞きもしない。何回かは聞いたけど三塚の答えはいつもいいからいるんだ、という答えで、反対に厄介になっている状態だろうと言ってくるから。
厄介って…そんなわけないのに。いつも凪は感謝しかない位だ。
自分に欠けているものを三塚が補ってくれていると思う。
生活や凪自身の事に関しても自分はどこか投げやりで自分の事などどうでもいいような気がするのだが、その凪を三塚が大事にしてくれるから…凪もいくらか変わったのではないかと思う。
そしてそれ位三塚への信頼や安心、想いが強くなっていってるんだと思う。
車から降りて隣に立った三塚の袖をそっと掴んだ。離さないで欲しい、離したくない…。
「凪…」
三塚の低い声が凪の耳を擽る。その色気を孕んだ、凪の名をたった呼ばれただけなのに凪の身体がざわついてしまうんだ。
玄関に入るとすぐにキス。
ピアノを弾いた後にキスしたかったんだ、と思い出し凪も自分から求めた。
全部三塚のおかげで今日があるんだ。
三塚の友達の店だったからいいよ、と頷いた。三塚がいてくれたからこそ気持ちよく弾けたんだ。
自分が変われたのも全部…三塚がいてくれるから…。
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