「凪」
絋士が凪の名を呼んだだけで凪の身体がふるっと震え、目をぎゅっと閉じる。凪の白い肌は上気して薄いピンク色になっており、息も熱く浅く漏らして快感に耐える姿に余計に煽られる。
「声……が…」
「好きでしょ?こうして耳に囁かれるの」
凪の耳朶を甘く食んで囁けば凪が小さくこくこくと可愛く頷いている。感じやすい身体だ。それとも自分だから…?
さんざん遊んできた自分の事は棚に置き凪の初めてのキスした相手、付き合った相手にまで嫉妬を向けたくなる。でもキスが好きじゃなかったと、そう言った凪だったけど、絋士には自ら舌を絡めて言葉はなくとももっと、とねだっているのが分かる。
無意識に腰も揺らして早くと誘ってるんだ。こんな凪を知っているのは自分だけ。そんな優越感が絋士を包む。
あの人前でのピアニスト高比良 凪が本当は可愛くて繊細だというのを知っているのは自分だけ。
ケーキを食べて幸せそうに笑う所やちょっと負けず嫌いな所とか、そんな可愛いなんて今日の客もこの間の客も知らない。孤高で前をきりっと向いた凪しか誰も知らないんだ。
本当は弱いんじゃないかと思っていた。コンサートの前にも緊張や何かでご飯も食べられなくて倒れてしまった凪に…だからこそ自分が支えになりたいと思った。
だがそれは間違っていた。凪は弱くなんかない。そもそも弱かったら常に一人で向かわなくちゃいけないステージの待つピアニストなんかになっていないだろう。
弱くはない…でも支えにはなりたい…全部を曝け出せる唯一の存在になりたい。
感じてねだる凪の腰を抱き絋士は自分の怒張を押し当てた。
絋士がいたから変わったと凪が嬉しい事を言ってくれる。自分の存在で凪にそう思ってもらえるなら…。
「んんぅ……」
声を抑えるように凪が絋士の首に腕を巻きつけて肩に顔を埋める。
抑えなくていい…もっと感じて淫らになればいいんだ。全部自分の前でだけだければ。隠しておきたい。誰にも気付かれないように…。そんな狭量な自分なんて知らなかった。好きだなんだと人と付き合うのなんか面倒だと思っていたのに。
「凪…分かる…?凪の中が待ってたって言ってるけど…?」
「言って…ないっ…!…ぁ、んっ!」
眦まで真っ赤にして否定する凪が可愛くてキスしてしまう。ぐっと凪の中を衝けば凪の身体が快感になのか背が反る。
まさか男相手にこんなに夢中になるなんて…。いや、凪は性別を超えてるんだ。綺麗で穢れなくて…。育った環境を考えれば凪は特殊だろう。母親にそう仕向けられ、それを成就するなんて普通は出来ない事。母親の狂気とも思えるような思いを凪は叶えてやったんだ。
「あ、ああっ…や、…そ、こ……」
「ここがいいんでしょう?」
凪がびくびくと身体を震わせて感じているのが嬉しくてそこを衝いてやる。キスしながら声を耳元で囁いて手は凪の前に添えこすってやる。とろとろと透明な液を零しながら凪が快感に震えている所が綺麗だ。
あちこちに唇を落としてキスマークをつけていく。凪の全部は自分のモノだ。こんなに人を好きだと…いや好きなんて軽いものじゃない。すべてを自分のものにしたいなんて思う日がくるとは思ってもなかったんだ。
この間のコンサートの時は一人だった凪が、今日はちらりと視線を交わせる位置に自分がいられた事がただ嬉しかった。凪の中でも自分の存在が認められているのが分かった。
それでも。
ピアノに向かう時は凪は一人で、絋士はただ待つしかない。
今日はこの間のコンサートの時と違って絋士も緊張してしまった。見ているだけの自分が緊張なんて言ったらその本人はどれくらい緊張するのか。
そんな中に自ら身を置いている凪を尊敬する。だからこそ守りたいと、支えたいと思ってしまうんだ。あのステージから離れればもう素を曝け出せるように…。自分の役割は凪を癒すこと。ステージに気持ちよく向かって人を感動させそして絋士の手に戻ってくればいいんだ…。
「凪…」
自分も凪に似合うような男にならなければ…。
いずれ凪は演奏家として活動するようになるだろう。今日のあの演奏を聴けばきっと誰もがまた聴きたいと思うはず。幾人もの人が凪の演奏に涙したという事はそういう事だ。
ではその時自分は…どうすればいい?
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