野田さんの所でディナーコンサートを終え、今度は東京でのコンサートに向けて本格的に練習モードに入らないと、と思った矢先だった。
いつもの様にレッスンを終えてリビングの方に行ったら三塚が火を止めた。
「凪、ちょっと野田から呼ばれてるんで行きませんか?なんか凪宛に封筒が届いてるって」
「僕宛?なんだろう?」
「そう。ご飯は帰ってきてから」
「それは勿論いいけど」
なにせ作ってくれるのはいつも三塚だ。
一緒に車に乗り込んで野田さんの店に向かう。
「なんかゴメン。僕の用事で…」
「全然。凪は気にしすぎ。もっとふんぞり返ってていいです」
「……それじゃヤなヤツだろう?三塚に愛想尽かされたくないな…僕も何かしてやりたいと思うけど…何も出来ない…」
「別にいいですよ?ああ、是非凪から誘ってくれれば」
「誘う?」
「そ。裸で挿れて、とでも言ってくれればもう…」
「ばっ!何っ!をっ…」
三塚がくっくっと笑ってハンドルを握っている。大きい手。ピアノも弾けて料理も出来て…。
それから…と自分の中に指が入ってくるとこまで思い出して凪は真っ赤になってしまう。
「うん?何?思い出しちゃった?」
「し、知らない!」
「あ、否定じゃないんだ?」
モロ分かりじゃないか!
ぷいと凪は三塚から視線を外して窓から外を眺めるが三塚はずっと笑っていた。
「はい。コレ」
野田さんの奥さんから大きめの茶封筒を渡された。
「誰から?」
三塚も覗き込んでくる。宛名が高比良 凪様になっていた。そして裏をひっくり返すと桐生 明羅の名前。
「!」
この間のはやはり!
でも野田さんのお店は丁度夕食時で混んでいて忙しそうだとその場で封筒だけ受け取り、野田さんに挨拶だけして三塚と店を後にした。
何が入っているのだろうか?ドキドキしてしまう。封筒は薄っぺらいけど。
車に戻ってから気になってやっぱり開けて見る事にする。三塚もエンジンをかけただけで気になるらしく凪が開けるのを待っていた。
「何ですか?」
そっと丁寧に封を開けた。
「……………楽譜、だ」
「…〝ピエタ〟…?」
三塚も運転席から身を乗り出して凪の手元を覗きこみタイトルを読み上げた。
二人で音譜を読む。
無言で音を読んでいった。
作曲者には桐生 明羅の名前。…これを自分に送ってきたっていう事は…そういう事か?
がくがくと凪は震えた。
「ど、どうしよう…?」
曲自体はそんなに長い曲ではない。だけど、まさか…。
「…桐生 明羅が凪の為に作った曲だ」
三塚がじっと凪の顔を見て静かに呟いた。
「…それ位凪の音楽が…ピアノがよかったって事でしょう。俺はあんまり詳しくないですけど、二階堂 怜に曲作ってる…ですよね?」
「…CMとか色々曲は提供しているけど、個人には…二階堂 怜以外には聞いた事ない…ど、どうしよう…?」
「……まずは弾いてみたら?じゃあ帰りましょう」
「そ、う…だな…」
世界で活躍する人なのに…。
「三塚……どうしよう…?」
「どうしようって…自信持てばいいんじゃないですか?」
「……そんな簡単に…」
中には連絡先も書かれた紙も入っていた。直接電話とかしてもいいのだろうか…?いいから携帯の番号も書かれているのだろうけど…。でも他には何もない。とにかく帰って曲を弾いて、だ…確かに、三塚の言うとおり。
綺麗な曲…。譜面を追っただけでもそれは分かる。
じっと家に着くまで楽譜と睨めっこする。
音譜が並んでいるけど指示が一つもない。最初は何から…?いやここは小さい音からだろう…最後も消えるように…。途中は繊細なスケールが並んでいる。ここは盛り上がるのか?でも囁くようにでもいいような気も…。
指示がないという事は自分で考えないといけないんだ。
そういえば二階堂 怜のコンサートで聴いた桐生 明羅のソナタもCDとは別の出来だった。
…そういう事なのだろうか?
そしてタイトルがピエタ。
十字架から降ろされたキリストを抱く聖母マリアだ。
「……キリストとマリア…どちらなんでしょう…?」
三塚が小さく呟いた。
「……さぁ?…どうだろう…?」
とにかく落ち着かない。今は早くこれをピアノで弾いてみたい!
ピエタ像を頭に浮かべ譜面を睨み、音を想像する。
この場に桐生 明羅がいるわけじゃないけどかなり緊張してしまう。
しかし日曜日に聴きに来てまだ週末にもなっていないのに曲が届くって…。やっぱり天才は考えられない事をするのだろう…。
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